伊藤聡

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伊藤聡

会社員兼ライター。書評、映画評を中心に、いろいろ書いております。| Twitter : https://twitter.com/campintheair | メール so.ito.so@gmail.com

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    見た映画に関する記録です

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    読んだ本の感想をまとめたものです

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    特にこれといったテーマもなく書いた雑文です

  • スキンケア本『電父』(平凡社)のすべて

    2023年2月24日発売の書籍『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社)について知ってもらうための記事です

  • 音楽の記録

    好きな音楽について書いたものです

最近の記事

『ヒットマン』と、「男らしさ」を持て余した主人公

グレン・パウエルの勢いリチャード・リンクレイター監督、グレン・パウエル主演のクライムコメディが『ヒットマン』です。『トップガン・マーヴェリック』(2022)以降ぐっと勢いが増し、一気に人気俳優の座に躍り出たグレン・パウエル。「彼でスター・ウォーズを撮ってほしい」「007にはチャラすぎるか」「ガイ・リッチーとは相性よさそうだぞ」など、キャスティング妄想がひろがるスター俳優になりました。本作も好調なようで、グレン・パウエル効果もあってか劇場はほぼ満員。本作は、監督と主演俳優の組み

    • 『ラストマイル』と、令和の一億総プロレタリア時代

      ※こちらの記事は映画の内容に触れています。 当初の予想を裏切る強いテーマ性大ヒット中の話題作『ラストマイル』である。私は会社の同僚に勧められて見たのだが、この経緯からしていかにもヒット作らしいと思う。当初は、予告編で描かれていた「物流倉庫から出荷される貨物に、爆弾が仕掛けられていた」というミステリーじかけの展開から、わかりやすいエンタメ作品をイメージしていた。しかし実際に見てみると、より重要なモチーフとして、日本の劣悪な雇用形態や労働環境、過労死、低賃金労働、貧困など、シリ

      • 『エイリアン:ロムルス』と、2024年のエンタメのかたち

        バランスよく配置されたドラマとエンタメ『エイリアン:ロムルス』は、『エイリアン』(1979)から始まるフランチャイズの最新作です。監督は、『ドント・ブリーズ』(2016)などで知られるフェデ・アルバレス。「エイリアン」シリーズは正直なところ玉石混淆で、なぜかプレデターと戦ってみたりと、よくわからない展開もあったのですが、本作に関しては非常によく練られた、エキサイティングな構成になっていました。人間ドラマとエンタメ要素がバランスよく配置され、息つく暇もありません。主人公のサバイ

        • クリステン・R・ゴドシー『エブリデイ・ユートピア』(河出書房新社)

          新しい世界を想像しようファック家父長制。その熱い思いで書かれた『エブリデイ・ユートピア』を読み、私の心は燃えた。「家父長制は歴史的な構築物だ。始まりがあるのだから、終わりは来る」。その力強いメッセージを胸に、私も生きていこうと思った。男性中心主義の根幹をなす家父長制。この悪しき制度を終わらせ、真に脱却するには、新しい世界を想像することが必要である。これまでに、世界のあらゆる場所で、ユートピア的世界を作ろうとする試みはなされてきた。それらを紹介しつつ、家父長制ではない社会はいか

        『ヒットマン』と、「男らしさ」を持て余した主人公

        • 『ラストマイル』と、令和の一億総プロレタリア時代

        • 『エイリアン:ロムルス』と、2024年のエンタメのかたち

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          『ACIDE/アシッド』と、なんか揉めちゃうお父さん

          予告編にあった「酸性雨で人が溶けてしまう」というモチーフが気になって、見に行きました。どこの国の映画かもよくわかっていませんでしたが、フランス映画でした。たしかに、なぜアシッドの綴りが「ACIDE」なのか、よくわからなかったんですよね。雨雲が悪意を持って追いかけてくるようなイメージに興味を持った人が多かったらしく、劇場はほぼ満員。映画は、身体に触れると死んでしまう酸性雨に追いかけられるといったホラー的なエンタメ方向に振ってはおらず、人間関係や社会問題を描くドラマとして構成され

          『ACIDE/アシッド』と、なんか揉めちゃうお父さん

          倫理的に間違っているが、爽快である

          そのできごとが起こったのは私が中学3年の冬、おそらく2月くらいではなかったかと思う。学年全員が体育館に集まって、卒業式の練習をおこなっていた。私は第2次ベビーブームの世代で、中学はひと学年につき10組あり、各クラスに43人、合計で430人がその体育館に集まっていた。少子化のいまでは信じられない人数である。ごく少数の教師で、どうやってこんな大人数の生徒を管理していたのだろうか。正直なところ、卒業式なんて適当にやればいいのにと思うのだが、やたらに綿密なリハーサルを行うしきたりがあ

          倫理的に間違っているが、爽快である

          『インサイド・ヘッド2』と、自我の解体工事

          https://www.disney.co.jp/movie/insidehead2 子ども向け精神分析映画2015年公開『インサイド・ヘッド』の続編である本作は、愛らしいルックを受け継ぎつつも、徹底した「精神分析映画」として深みのある内容になっていた。エンタメと人間の心理(精神分析)が結合して、子どもにも伝わりやすいストーリーとして構成させる視点の鮮やかさが光る。1作目を見たときにも思ったが、よくこんな映画の企画を通したものだと感心してしまった。ある少女の思春期を描いてお

          『インサイド・ヘッド2』と、自我の解体工事

          8月の後半

          子どもの頃からずっと感じているのだが、8月の後半は妙にさみしい。何十回経験しても、8月の終わりには何ともいえない喪失感があるのだ。夏が終わるのが悲しくて元気が出ない。暑い暑いと文句を言いながらも、いちばん好きな季節はやはり夏なのである。「涼しくなるのが嬉しい」という人もいるが、私はずっと暑いままでいてほしい。アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(1995)の劇中で、セカンドインパクトという大災害が原因で季節が喪失し、一年中夏になっているという設定を知ったとき、ちょっとうらやましか

          8月の後半

          高橋幸『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど』(晃洋書房)

          「ポストフェミニズム」ってなに?社会学者・高橋幸の著書『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど』(晃洋書房)は、「ポストフェミニズム」について論じた本である。正直に言うと、本書を読むまでこの言葉を知らなかった。ポストフェミニズムとは、同書の「はじめに」で解説されている通り、「現代社会においては男女平等がある程度達成されたので、もうフェミニズムは必要ない」という主張を指している。こうした考え方は危ういと思うが、なぜ女性の側からポストフェミニズムが主張されるかが、本書を通

          高橋幸『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど』(晃洋書房)

          『フォールガイ』と、虚構としての映画

          映画業界を支えてきたスタントマン「フォールガイ」(落ちる人)とは、映画業界におけるスタントマンの別名であるそうです。作品は、長らく映画の世界を支えてきたスタントマン(女性もいるので、スタントパーソンと呼ぶべきでしょうか)への愛情にあふれたフィルムになっていました。主人公コルト(ライアン・ゴズリング)は、人気俳優のダブル(髪型など容姿を似せた上で、アクションシーンのスタントを担当する)として活躍するスタントマンでしたが、撮影中の事故で怪我し、そのまま引退状態となります。恋人のジ

          『フォールガイ』と、虚構としての映画

          世界でいちばんおもしろい映画

          「いちばん好きな映画はなんですか」人との会話のなかで趣味を訊かれ「映画が好きです」と伝えたとき、「いちばん好きな映画はなんですか」という、答えようのない質問をされることがある。問いかけが雑である。もうちょっと考えてから質問してほしい。そうかんたんに決められるはずがないじゃないか。せめて、いくらかは答えやすいように「20代に見たなかで」「アクション映画で」「ジブリ作品で」など、範囲を限定して訊いてほしいのである。とはいえ、こういう場合のために私はあらかじめ答えを用意していて、そ

          世界でいちばんおもしろい映画

          『ツイスターズ』と、竜巻と共に舞い上がる恋の行方

          竜巻を追いかけます(28年ぶり2度目)『ツイスターズ』は、ヤン・デ・ボン監督『ツイスター』(1996)の続編として製作されたディザスター映画です。「竜巻の出てくる映画である」という以外、前作を引き継いでいるわけではありませんので、予習は特に必要ないかと思われます。豪勢な竜巻の描写がスペクタクルを感じさせ、展開も心地よい快作と呼べるのではないでしょうか。竜巻が発生するには、平らで広く障害物のない土地が条件だそうで、アメリカのように広大な場所でないと起こらないらしく、そのアメリカ

          『ツイスターズ』と、竜巻と共に舞い上がる恋の行方

          クラーク志織『ロンドンの片隅で、この世界のモヤモヤに日々クエスチョンしているよ。』(平凡社)

          初対面の相手に失礼なことを言うもし『ロンドンの片隅で、この世界のモヤモヤに日々クエスチョンしているよ。』の著者であるクラーク志織さんが、たまたま私の参加した飲み会にやってきたらと仮定しよう。この記事のヘッダに載せた写真の方があらわれて、私の向かいの席に座ったとして、初めて会うクラークさんとなにか会話をしなくてはならない。さて、どんな話題で打ちとければいいのか。なるべく当たり障りのない、ふんわりしたトークテーマがほしいところだ。「イチゴとメロン、どっちが好きですか?」。ところが

          クラーク志織『ロンドンの片隅で、この世界のモヤモヤに日々クエスチョンしているよ。』(平凡社)

          DIYに無縁の人生を送ってきました

          憧れの暮らしがそこにYouTubeで、タレント井上咲楽さんの動画を見た。彼女が生まれ育った実家の様子を紹介する動画なのだが、見てみると、ご家族が豊かな自然のなかでDIY生活を送っているいきいきとした姿があった。私はこの動画に衝撃を受け、とてつもない敗北感にまみれていた。すばらしいと思った。なにしろ井上さんの実家では毎日、薪を割ってお風呂の湯を沸かしているのだという。信じられなかった。一方、私の人生にはDIY要素がない。私は生まれてこの方、「ゼルダの伝説」のゲーム内でしか薪を割

          DIYに無縁の人生を送ってきました

          吉村昭『関東大震災』(文春文庫)

          祖母の体験した関東大震災私の祖母は明治生まれで、歯科医になるために福島から上京し、都内(当時は東京市であったので、市内というべきか)の学校へ通っていたという。しかし、そのタイミングで関東大震災が発生し、歯科医をあきらめるほかなく、福島へ戻って助産師になったという経歴がある。いまになってみれば、関東大震災についてもっと話を聞いておけばよかったと残念に思う。子どもだったので、そのような災害があった事実を知らず、歴史に興味もなかったし、祖母との会話はどうにも退屈だった記憶しかない。

          吉村昭『関東大震災』(文春文庫)

          私は30点の弱者男性だと判明しました

          採点したところ……以前から、巷でよく言われる「弱者男性」がわからないと思っていた。私は弱者男性なのだろうか。なにがどうなると、弱者男性として認定されるのだろうか。調べてみると、世間には「日本弱者男性センター」なるNPO団体も存在しており、ある種の社会問題となっているらしいのだ。そこでまずは言葉の定義を確認してみたが、これも諸説ある。いくつかの定義があったが、個人的には、関連した著書もある杉田俊介氏が提唱している5項目「労働の非正規性」「収入」「容姿」「コミュニケーション能力」

          私は30点の弱者男性だと判明しました