本気で「偏愛で世の中に寛容をつくる」ために、会社を新調することにした
創業から7年、これまで多大なる貢献をしてくれていた第一号社員が退職する。彼女を「祭り」で送り出すことは決めたが「さびしいのはもちろんだし、リーダーだった彼女の卒業は、メンバーが目標をうしなってしまうような影響もあるかもしれない。でもこれはCampが変わる良いタイミングだし進化せねば!」と、代表の横田と新田は気持ちをあらたにしていました。
そこで、Campという組織を今よりひとまわり成長させるため、ビジョンをあらたに掲げ、メンバーとの対話やワークショップを通じて「OKR」を作成。合わせて、少々思い切った体制変更を行うことにしました。
今回はそんな取り組みを、それぞれどんな想いや目的を持って始めたのか。また小規模なチーム、とくに編プロや制作会社が根本的に抱える課題についてどのようにアプローチしていったのか、お伝えしていきたいと思います。
組織と社員が同じ方向に向かうための「OKR」作成
まずは、ちょっと聞きなれない(かもしれない)OKRのお話から。OKR=Objectives and Key Resultsとは、組織と社員が同じ目標に向かい、成果を上げるために設定する「目標と成果指標」のことをいいます。
Campには「偏愛で世の中に寛容をつくる」というミッションがあります。
メンバーたちは入社時に「この言葉に共感して応募しました」と言ってくれることも多く、Campにとってたいせつな考えではあるものの、実際に仕事をする中でこのミッションが日々の業務とどう繋がっているのか。また個人の内発的な意思を問う機会というのは、あまり持てていませんでした。
代表の横田は「Campはずっと作家さんやクリエイターが活躍しやすい社会に、ひいては自分たちも含め生きづらく感じている人が生きやすい社会にするために活動してきたけれど、本気で『偏愛で世の中に寛容をつくる』ことを実現するならば、もっと社内のメンバーとミッションを共有し合わないといけない」とも考えていました。
そこで実施したのは、「偏愛で世の中に寛容をつくる」を紐解き、それぞれの仕事と連動する目標に落とし込むこと。
まずはミッションを
「インディペンデントな表現活動やものづくりを支える場づくりを行う」
「作家と協業し、表現の力でビジネスや組織にユニークさを組み込む」
「関わる人のより良い未来のためにサポート、マネジメント、育成を行う」
などの目標に分解。さらにチームの目標へと落とし込みました。
その後、メンバー一人ひとりが「仕事を通じて人生でどんなことを実現したいのか」を出し合って、それらを先ほど分解したチームの目標と紐づけていきました。
「Campというチームの目標と、メンバー個人の仕事をする上での目標がつながっているとよいなとの思いで、一方的に経営陣が目標を立てるのではなく、新入社員も含め一人ひとり考えてもらう機会をつくりました。お恥ずかしい話、経営陣がなかなかOKRを決められなかったのに対し、ほとんどのメンバーがすんなりと目標を立てることができていたので、『やっぱCampのみんなすごい!』ととても驚きました」(横田)
また、OKRを設定したもう1つの大きな理由は、「項目を立ててポイント制などにすると、数字に直結する成果だけを求めるようになってしまう」と意図的なものではあったのですが、これまでCampでは評価制度があまり体系化されていなかったためです。
以前までは、個人として「こんなスキルを身につけよう」というスキルマトリックスの表があり、Web制作や編集、イベント制作などさまざまなスキルの練度を一人ひとりの自己申告と年に一度の面談に基づいて白から黒の色で段階的に変化させていくことを目標としていました。
創業からしばらくは、各々で目標を定めそれに邁進することは一定の効果もありました。ただ「これだけでは会社の成長が個人のスキルやモチベーションに依存することになってしまい、チームで仕事をして成長し成果をあげていくことに紐づかない。この表のオレンジが黒になったから2万円給料が上がるというのもなんだか違うよな……」と経営陣は常々感じていました。
この悩みも、これからはスキルマトリックス+OKRで、ミッションとも紐付けながら評価をすることで「自身で立てた目標を達成したか=チームに寄与しているか」を明白に測ることができるようになったため、今後は解決していくことができそうです。
クリエイションに向き合う時間を増やす、組織の体制変更
これまでCampの組織は、「イベント」「クリエイティブ」「デザイン」とチームごとに分かれていました。また多くの制作会社や編プロと同じように「ウォーターフォールモデル」で仕事を進めており、小さなチームであることも相まって一人が役割を兼務することも多々あり、さまざまな課題が発生していました。
■課題の一例
それぞれの仕事の領域が曖昧で、アカウント・プロジェクトマネージャー・ディレクターの兼任などにより外部との調整・内部との折衝・制作すべてを請け負うことになっていた。そのため一人の人間に工数や負荷がかかりすぎてしまう
個人で仕事を進めることが主のため、担当だけしか状況が把握できていないブラックボックスのような状況が発生してしまう
デザイン関連の業務について、クリエイティブチームのトップである横田とデザイナーチームのトップである植木どちらにも承認を得るため、手待ちが発生してしまう
ディレクターの担当領域が特に広く、個々への負荷が大きいうえに担当範囲が「PM」や「編集」「プランニング」など個人依存になってしまう
当初クリエイションを高めるために行ったチーム分業制が古くなり、縦割りや進行を優先するような動きとなってしまう
目の前の業務に手一杯となり、より強みを発揮できる仕事をつくっていくための活動に時間が裂けない
そこで、Campではこれから新たな体制として、アジャイル開発のフレームワークである「スクラム」を導入していくことしました。チームを組んで役割やタスクを分散しつつ、クイックなコミュニケーションを増やしながら仕事を進めるスクラムを導入することで、これらの課題を解決していきます。
まず導入にあたり、まずはそれぞれの役割を整理し、明確にすることからはじめました。
続いてプロジェクトの流れに沿って、各メンバーの担当範囲がどこまでなのかを明確にし、フェーズごとの業務やタスク、判断のタイミングなどを規定していきました。
さらにスクラムの特徴として、メンバー同士が密接にコミュニケーションをとりながらプロジェクトを進めるという点があります。よくある情報共有のパターンとして、週1で定例会議を設定し「う〜ん」と悩みながら意見を交わしたり、上司が部下に報告を促すだけのミーティングが発生したりするようなことがありますが、スクラム方式では毎日15分程度メンバーが顔を合わせて、今日のタスクを確認します。
課題があればその場で共有し、全員で考えることで問題が小さな内にすばやく対応できるので、まず1人がボールを持ち続けることがなくスムーズに仕事を進行していけます。遠くを見通しすぎると疲れてしまいますが、目の前の課題をチームで1つ1つ片付けていけば、マルチタスクにならず個人で課題がスタックすることもなくなります。また個々の能力に依存することも少なくなり、年次の浅いメンバーが担当する場合もクオリティを落とさず安心して業務に取り組むことができます。また定期的に振り返りも実施していくので、チーム全体の成長へとつながっていきます。
このような体制で今後は問題にすばやく特定・対処することでムダをなくし、本来の価値であるクリエイティビティに向き合う時間を増やすことで、より強いチームへと成長していけたらと考えています。
Campが目指す未来のイメージを具体的に、ビジョンの制作
最後に、ミッションとバリューをつなぐ言葉として、あらたに策定したビジョンについて。
今回策定したビジョンは「社会に別注をかけ続け、未来のレコードを裏返す」。ミッションである「偏愛で世の中に寛容をつくる」をより具体化し、Campが目指す未来を言語化しました。
Campは、Webサイトやグラフィック、記事やイベント、グッズ制作などソリューションはさまざまですが、いずれもパートナーとしてお客さまの課題を見い出し、アートやクリエイションの力でオリジナリティの高い解決策を提示することを生業としています。
オーダースーツでたとえるなら……まず「どのような用途でスーツをお求めですか?」と目的を聞き、それに応じて「年間通して着られるならば通気性のよいメリノウールがオススメで、ボタンは貝ボタンか金属はどうでしょう」と具体案を提示します。お客さまが「貝ボタンで」と答えれば、「袖口のボタンは付ける数でもイメージが変わります。4〜5個の場合はオーセンティック、数を減らせばカジュアルで若いイメージになります。重ねボタンもいいかもしれませんね」……といった感じで、提案を繰り返しながら、お客さまだけの特別な仕立て(=別注)を行います。
あるいは、音楽ライブで即興で一度だけ行った演奏がセンセーショナルなものだったけど、音源として収録することでたくさんの人に聞いてもらえるようにする。そうすることで、ヒット曲的なA面だけでなくB面にもスポットがあたり(=レコードを裏返す)、普遍的で日常的なものになる。でもいまはただ配信でリリースしても届かないかもしれない。そこでCampならたとえば写真家や画家とコラボして複数のジャケットをつくり、その作品の展示を行い、そこでしか手に入らないレコードとしてリリースすることで、手にとる方に特別な想いを持ってもらえる企画を起こすかもれません。
「作家さんとの別注的クリエイションを通じて、これまで当たり前とされていなかったことを普遍化していく。あるいはパーティの片隅で途切れた音楽に気づいてレコードを裏返し、ふたたび音楽を鳴らす。曲順を進めたり、場の雰囲気を変えたりする。
レコードにはデータや記録という意味もありますね。オリンピックのように新記録樹立、とまではいかないかもしれませんが、世の中をよりよく前に進めるために仕事をしていきたい。ただ、自分たちが未来をつくるぞ! 変えていくぞ! なんておこがましいことは思ってなくて。自分も含め、いまを生きづらく感じている人がすこしだけ生きやすくなる未来の礎になりたい、そんな思いです。
そうしてオルタナティブが根づいていけば、結果的に社会の範囲も広がり、世の中ももっと寛容になるはず。これらを自分たちなりの表現にすると『社会に別注をかけ続け、未来のレコードを裏返す』となりました。実は新田くんがファッション畑、横田が音楽畑出身ということにもなぞらえてるんですよ」(横田)
これらの取り組みによって、Campはいままで以上にクリエイティビティと向き合い、よい仕事を生み出す強いチームになり前進していきたいと考えています。今回の取り組みが半年後、1年後どのような成果を生むのか。また振り返ってみたいと思いますので、あたたかく見守っていただけたらうれしいです。
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現在、Campでは以下の職種で仲間を募集中!
・編集者
・制作ディレクター
・イベントディレクター
続々と仲間も増え、おもしろい仕事&チームの伸びざかりを経験できます。小さい会社のわりに福利厚生などもかなりがんばっています。ご興味をもっていただけた方はコンタクトからご連絡ください。
https://campinc.tokyo/contact/
編集&ディレクションなど、複数の経験をお持ち方はなお大歓迎! 制作パートナーも随時募集しています。ご連絡お待ちしています。
クレジット:取材・執筆:星 文香、イラスト:tactsato
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