見逃された遅刻
お昼休みに書店で、阿川佐和子さんの著書『ないもの ねだるな』を手に取り、偶然開いたページを立ち読みしていたところ、ご自身の遅刻にまつわるエッセイが掲載されていた。
読んでいるうちに、中学時代のある同級生が遅刻した朝のことを思い出した。
彼女とは、中学3年間一緒のクラスだった。彼女は非常に優秀で、成績は常に上位3番以内にいた。中1での初めての定期試験で、彼女は国語と数学が100点だったのを、今でも憶えている。
難しい内容でも、せいぜい2回も聞けば理解する能力を持っていて、本来ならもっと上の学校にいるはずの人だった。
『通学しやすいから』という理由で、せっかく合格した偏差値の高い中学ではなく、滑り止めの方を選んだという。これには皆で「信じられない。」とよく言ったものだ。
彼女とは席が近くなったこともあり、中学時代は割りと親しかった。
そしてこの彼女、無遅刻・無欠席という点でも優秀だった。
あれは中1最後の終業式の日。
一年間、無遅刻・無欠席だった生徒の名前を担任の先生が読み上げ、呼ばれた生徒が次々と返事をする中、彼女の名前のところに来た時、皆が「あれっ?」となった。
彼女がいなかったからだ。すると、教室の後ろの扉がガラッと開き、彼女が慌てて飛び込んで来た!
「最後の日に!」と皆が爆笑する中、誰かが言った。「先生! 取り消してあげなよ。」
次々に「そうだよ。最後の日なんだし、なかったことに。」という皆の声に押され、先生は苦笑しながら、彼女の遅刻を取り消した。
こうして彼女は、皆の好意で、無事に皆勤賞の仲間入りを果たした。(因みに私も仲間入り!)
ある時、その彼女が、自分の将来の夢を語ったことがある。
「私、苦しむような大恋愛の末に結婚して、子どもが2人欲しいんだ。」
彼女に対しては、バリキャリのイメージを抱いていたので、この夢は意外だった。
当時、恋愛ドラマが流行っていたから、その影響を大いに受けていたのかも知れない。
高校生になってからは、彼女とはクラスが離れてしまったが、時々廊下などで会うと、短時間の会話に花が咲いた。
高校生になっても相変わらず優秀だった彼女は、ストレートで有名一流大学に合格した。「彼女なら、それくらいの所に合格るだろう。」と思っていたので、別段驚きもしなかった。
高校卒業以来、彼女とは会っていない。連絡も取り合っていないから、今、どこでどうしているか知らない。
彼女の『夢』は、叶っただろうか?
阿川さんのエッセイを楽しく拝読しているうちに思い出した彼女。
彼女は、中学高校6年間を通して皆勤だった。(残念ながら、私は精勤。)
しかし、彼女の皆勤賞の裏には、皆の好意で見逃して貰った1日があることを、私は忘れていない。
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