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ある約束

基本的に霊とか超常現象の類は信じませんが、1つだけ、信じたいと思ったお話があります。

現在も活躍中の作家、佐藤愛子先生の著作『私の遺言』にあったエピソードです。記憶の限り、綴ってみます。

佐藤先生は、同級生だった故・遠藤周作先生と、ある約束を交わしました。その約束とは『いずれどちらかが先に逝き、万一あの世があったなら、何らかの方法で、生きている方に伝えること。』 この約束を交わした後、遠藤先生は旅立たれました。

そんな約束も記憶の彼方となった頃、1本の電話が佐藤先生宅にかかります。出てみると、知り合いの霊媒師の方でした。最初はとりとめのない会話をしていましたが、途中で霊媒師がこんな質問をしてきました。

霊媒師:今、どなたか他に、お部屋にいらっしゃいますか?
佐藤先生:いませんよ。私1人です。
霊媒師:でも、誰かいるような気がするんですが…
佐藤先生:変なこと言わないで下さいよ。私しかいませんよ。
霊媒師:…
佐藤先生:では、その方は、どんな外見をされていますか?
霊媒師:小柄で、眼鏡をかけていて…

霊媒師が語り始めたその人物の特徴は、聞けば聞くほど遠藤先生にそっくりです。『まさか…』と思った佐藤先生は訊ねます。

佐藤先生:その人、どんな服装をされていますか?           
霊媒師:茶色いセーターを着ています。

この瞬間、佐藤先生の疑惑は確信に変わりました。そのセーターは、遠藤先生が生前、好んでよく着ていたものだったからです。そして、あの時の約束が思い出されます。『こういう手で来たか…』

佐藤先生:その方、今、部屋のどこにいらっしゃいますか? 
霊媒師:机の横に立っています。先生が書きかけの原稿を見ながら、ニヤニヤされておられますよ。

思わず机の方を見ました。けれど佐藤先生には、その姿は見えません。でもその瞬間、胸が一杯になりました。『出来るものなら、もう一度話したい!!』 溢れる思いで満たされながら、佐藤先生は立ち尽くすのでした。

上記のような内容でした。かなり前に読んだので、多少記憶違いな箇所はあるかも知れませんが、大筋はこんな感じだったはずです。

この約束は二人しか知らなかったそうなので、霊媒師にからかわれたとは思えません。私が唯一、信じたいと思った、何とも不思議な話です。   

そろそろ暑くなってきたので、この手の話もいいかなと、思い出すまま書いてみました。

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