「ル」の行方
「・・・あら、いやだわ。何だったかしら」
「どうしたの?」
「ホラあの、そこの角にある、安めのカフェの
名前よ。思い出せなくて」
先日、韓国料理店で僕が昼飯を食べていると、
左側に座っていた50代らしき女性3人が
そんな会話をし始めた。
「あ~もう、急に出てこなくなっちゃった」
「あの角の店でしょ。分かるわよ。でも私も店名が・・・」
「いやねぇ~、3人もいて、3人とも思い出せないなんて」
「ノドまで出かかってんのよ。そうそう、確か、『ル』が付くの」
「うん、名前のどこかに『ル』が付くわね」
盗み聞きする気は無かったが、僕は1人だったので
どうしても会話が耳に入って来てしまう。
店名に『ル』が付くならば、きっと『ドトール』か『エクセルシオール』だろう。しかし、いくらなんでも『ドトール』を忘れるとは考えにくいので、おそらく後者だろう。
この件、すぐに思いだしそうなものだが、彼女たちはこの思い出し作業をまだしばらく続けている。
いいかげんもどかしいが、ここで僕が
「あのう、すみません、もしかしてそれは『エクセルシオール』では?」と言うのも、本人たちもいい気分はしないだろう。
・・・もう気にしないでおこう。
俺はプルコギを食べる!
「あ、もしかして、『シャノアール』じゃない?」
「うーん、ちょっと違う気がする」
「う~ん」
・・・そうか、確かにそれも『ル』が付くな。
そう言えば、『ルノワール』なんてのもあるけど、『ルノワール』を果たして安いカフェと呼ぶだろうか。
「もう諦めた!私、ケータイで調べるわ」
けっこうそこに行くまで時間かかったな。
「あ~!!分かった!そうだそうだ、この店だった!スッキリした~」
「何よ、何て名前だったの?」
「『ベローチェ』」
「そうだ!あ~スッキリした。それじゃそろそろお茶しましょう」
「安めのカフェにね(笑)」
・・・『ル』はどこ行ったんだ。
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