リリース2年で売上1,000億円越え。インフルエンサーブランドとその仕掛け人「Congo Brands」とは
こんにちは!Z Venture Capitalでコマース領域を担当している内丸です。
みなさんは「PRIME」「Alani Nu」というブランドをご存知でしょうか?
いずれも人気インフルエンサーがプロデュースしており、海外で大人気のブランドです。
特に、PRIMEは2022年にリリースされたばかりですが、2023年の売上は12億ドル(!?)を見込んでおり、とんでもないスピードで成長しています。
「インフルエンサーのブランドの人気なんて一過性のものじゃないの?」と思った方もいたかもしれません。しかし、PRIMEもAlani Nuの躍進は決してたまたまではなく、狙って作られた再現性の高い成功なのです。
そして、これらの成功を裏で仕掛けた黒子こそが「Congo Brands」という会社です。
今回のブログでは、インフルエンサーブランド「PRIME」「Alani Nu」とその裏で活躍する「Congo Brands」を解剖していきたいと思います。
大人気Youtuberローガン・ポールとKSIが率いる「PRIME」
まずは冒頭でお話した「PRIME」について、紹介したいと思います。
PRIMEとは、YouTuberのローガン・ポールと KSIが設立した飲料会社「Prime Hydration」が提供する水分補給・エネルギー飲料水ブランドです。
ローガン・ポールとKSIは世界的な人気を誇るYoutuberであり、Youtubeの登録者数(2023年11月時点)は
ローガン・ポール:2,360万人
KSI:2,410万人
2人を合わせるとなんと5,000万人近くの登録者数います。
そして、この2人はなぜかボクシングのリングで2試合戦っています。
2試合目のあとに2人は大企業に匹敵するブランドを作る構想を話し合います。それがPRIME立ち上げのきっかけになりました。
その後、2022年1月に「PRIME」の発売を発表すると2人のインフルエンサーとして力を存分に発揮して、商品をプロモーションしていきます。
特に下記のマーケティング手法により欧米を中心にバイラルで爆発的な人気を得るようになります。
①ソーシャルメディアの活用
②有名スポーツクラブ・リーグとの提携
③供給の制限
1つずつ見ていきましょう。
①ソーシャルメディアの活用
PRIMEを発表すると同時に、ローガン・ポールとKSIは自身のソーシャルメディアで、PRIMEに関する企画・投稿を矢継ぎ早に仕掛けていきます。
Youtubeのフォロワーだけでも合計5,000万人を抱える2人なので、影響力が途轍もなく大きいことは想像に難くないと思います。
例えば、PRIMEをリリースした2022年1月にはWlamartに2人が従業員に扮して潜入する動画を投稿して、1,000万回以上の再生回数され話題を集めます。
また自身のソーシャルメディアだけでなく、他の人気インフルエンサーとのコラボを通して、「PRIME」を宣伝し、知名度を獲得していきました。
例えば、ベースジャンプで有名なインフルエンサーJohnni DiJuliusとコラボでは、ヘリコプターから飛び降りる前に「Drink PRIME」と叫ぶ動画を投稿しており、なかなか衝撃的な動画になっています。笑
②有名スポーツクラブ・リーグとの提携
ソーシャルメディアだけでなく、熱狂的なファンを持つスポーツクラブやリーグと提携することで、スポーツに紐付くファン層も取り込んでいきました。
そして、提携先は超一流どころばかりです。
2022年7月:サッカー プレミアリーグのアーセナルと提携
2023年1月:総合格闘技 UFCと提携
2023年4月:ベースボール ロサンゼルス・ドジャースと提携
2023年7月:サッカー ラ・リーガのバルセロナと提携
2023年8月:サッカー ブンデスリーガのバイエルン・ミュンヘンと提携
2023年8月:サッカー マンチェスターシティのハーランド選手と提携
③供給の制限
3つ目のマーケティング手法は「供給の制限」。意図的なものではなかったとKSIが後に語っておりますが、PRIMEの希少性によってファンがより熱狂することになりました。
PRIMEが英国で2022年10月に上陸した当初は、大手小売チェーンALDIのみでの限定販売としました。
その結果、店舗に客が押し寄せて大混乱と熱狂を生み出すことになります。
PRIMEを手にしたい客が行列を作ったり、他の人を押しのけて購入しようとする姿が動画として拡散され、大きな話題となりました。
また、あまりの人気から、PRIMEが高額で転売されていることが社会問題化しました。
このようなマーケティングの結果、PRIMEは驚異的な売上を叩き出しています。
1年目の2022年で2億5,000万ドル、
そして2年目にあたる2023年は12億ドルに達する見込みとのことです。
フィットネスインフルエンサーが立ち上げた「Alani Nu」
さすがにPRIMEと比較すると見劣りするものの大きな売上をあげているインフルエンサーブランドがあります。
ケイティ・ハーンとその夫ハイドン・シュナイダーが2018年に立ち上げた「Alani Nu」です。
ケイティ・ハーンとハイドン・シュナイダーはそれぞれInstagramでフォロワー173万人と40万人を持つインフルエンサーです。
Alani Nuはプロテインバーやエナジードリンクといったウェルネス系のブランドを販売しています。
ケイティ・ハーンがフィットネスインフルエンサーとして活動していた中で、オススメできるプロテイン・サプリがなかったことがきっかけで作った会社であるとされています。
Alani Nuのマーケティング手法は、「創業者自身のインフルエンス力」と「他のインフルエンサーのコラボ」によって認知拡大するという点でPRIMEと類似しております。
2022年1月にはソーシャルメディアのスーパーインフルエンサーであるAddison Raeとコラボして、新フレーバーを発売します。
2023年7月には、セレブのKim Kardashian(Instagramのフォロワーは3.6億人!?)とコラボした新商品「Alani by Kim K」をリリースしています。
このようなソーシャルメディアの活用だけでなく、Alani Nuの商品は全米6,2000店舗で取り扱われているという強力な販売網もあります。
同社の売上は2021年時点で2億2,800万ドルといわれています。
2022年の売上はわからないもののEBITDAは1億ドル越え、評価額は30億ドル以上とされており、設立5年でこの規模になっているのは本当に驚きです。
「Congo Brands」の概要
瞬く間に一大ブランドとなったPRIMEとAlani Nuですが、ローガン・ポール/ KSI/ ケイティ・ハーンといったインフルエンサーはあくまでも表面上の創業者であり、真の所有者は実は「Congo Brands」という会社なのです。
現にローガン・ポールとKSIが保有するPRIMEの株式はそれぞれ20%ずつであり、残りはCongo Brandsが保有しています。
Alani Nuについても株式の保有状況は不明であるものの大半はCongo Brandsが保有していると言われています。
Congo Brandsは、他にもボディービルダー・インフルエンサーChristian Guzmanを”表面上の創業者”とするスポーツドリンク「3D Energy Drink」を保有しています。
Congo Brandsとはどんな会社なのか?
Max ClemonsとTrey Steigerの2人によって設立された会社なのですが、黒子に徹しているため、メディア露出はほとんどなく、VCからの資金調達も全くしていません。
創業者の Max ClemonsとTrey Steigerのバックグラウンドもキラキラしたものはなく、良くも悪くもいたって普通です。
高校の同級生であった2人は、大学で会計学・ファイナンスを学んだ後に、2017年にCongo Brandsを立ち上げます。
その後は、前述の通り、Alani NuとPRIMEで大成功をおさめます。
「Congo Brands」のビジネスモデル
Congo BrandsはAlani NuとPRIMEでどのような役割を果たしているのか?
それは「プロモーション以外全て」と言うことができます。
プロモーション部分はローガン・ポールやケイティ・ハーン等のインフルエンサーに任せて、それ以外のデザイン・製造・流通等のオペレーション部分は全てCongo Brandsが担っています。
徹底的にオペレーションに特化したCongo Brandsと爆発的なプロモーション力を持つインフルエンサーを組み合わせることで、短期間で世界的なブランドを作ることができます。
この方程式をCongo Brandsは見つけたのです。
Congo Brandsのビジネスモデルの詳細は開示されていませんが、恐らく下記のような形だと想像できます。
Congo Brandsがブランドを作りたいインフルエンサーを見つける:
「めんどくさいオペレーション部分は全部Congo Brandsでやるから、一緒にブランドを作らないか?」みたいな感じで口説くインフルエンサーと共同で会社を設立する:
このとき株式マジョリティは必ずCongo Brandsが持ち、経営のコントロールをできるようにするあがった利益を株式の持分比率に応じて分配する:
インフルエンサーとしては得意なプロモーション領域のみに特化できること、そしてブランドの所有権を一部持っているため、最大限商品を売る努力をしてくれる
このビジネスモデルは色々な解釈ができます。
インフルエンサーの「ホワイトレーベル」だと考えることもできますし、投資家的な視点で見るとインフルエンサーブランドの「インキュベーター」「サーチファンド」に近いとも言えます。
現にAlani Nuは約30億ドルの評価額で売却先を探しているとの報道もあります。たったの5年で約30億ドルの会社を作ったと考えると、投資としても途轍もないリターンが出ると思われます。
過去にも、
・Kim Kardashianの水着ブランド「Skim」は40億ドルの評価額がつく
・50セントのドリンクブランド「Vitamin Water」は41億ドルでコカ・コーラによって買収される:このとき50セントは持分比率に応じて1億ドルを得た
といったインフルエンサーがブランドを設立してプロモーション部分のみを担うケースは存在しました。
しかし、Congo Brandsのように、インフルエンサーブランドを狙って連続的に成功させた例は初めてではないかと思います。
Congo Brandsは今後もインフルエンサーと共同でブランドを設立していくと思いますが、Alani NuとPRIMEの成功事例があるので、インフルエンサーのソーシングも圧倒的に楽になるはずです。
まさにCongo Brandsが描いたフライホイールがまわりはじめたのです。
おわりに
ここまで読むとPRIMEやCongo Brandsの成功が決して偶然ではなかったことが、おわかり頂いたと思います。
直近ではTherasioやBenitago Groupが破産申請をする等、D2C領域ではネガティブな報道が相次いでいます。
多くのペイド広告に依存していたD2Cブランドは、規模が拡大するとCPAも高騰するという課題を抱えてきました。
D2Cブランドに限らず、従来のコンシューマーブランドも多額の広告宣伝費をかけています。
一方で、Alani NuやPRIME等のブランドはインフルエンサー自身が広告塔になり、バイラル的に認知を獲得できるため、広告費を大幅におさえることができるのです。
実際に、ドクターペッパー・ゼロがメディアに費やした費用が2,300万ドル(費やした期間は不明)であったのに対して、Alani Nuは同期間で費やしたのはたった9,000ドルであったとのことです。
Congo Brandsのやり方は、D2CブランドだけでなくB2Cサービスを展開する方の参考になるのではないかと思います。
この領域に興味がある方は是非ともディスカッション・情報交換したいので、気軽にご連絡下さい。
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参考資料