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あひる。【第一話】「16歳、夜の入り口」

〜平成を愛し、平成に愛され、平成と共に散った男〜

駅前のカフェ。
夜の郊外、ネオンがチカチカ光る外を見て、俺は静かに呼吸を整えていた。
16歳。何の経験もない、ただのガキが、これから夜の世界に飛び込む。そんな覚悟だけが胸の中に残っている。

『準備は出来たか?』

目の前には鷲尾――黒いスーツに鋭い目。
会うのは2回目だが、彼の存在感が場を支配している。俺は自然と背筋が伸びた。

――――1週間前――――

中学卒業したての16歳
真面目な普通の高校生、なんてわけがない。
都心から離れた郊外の街、駅から少し歩いたところにあるボロい借家に住んでる。
学校にはあんまり、とゆうかほぼ行かない。
家庭の事情だの、学業不振だの、そんなのどうでもいい。
とにかく金が欲しい、現実が欲しい、そして学校を辞めた。
日中は日雇いのドカタ作業員
そして夜な夜な街を歩く
朝も早いのに何故かって?
頭の中で「このままじゃ終わる」って声が鳴り響いているからだよ。


その日の夜もいつものように駅前の繁華街を歩いていた
狭い路地の先に見えるネオンがやけに眩しい。
平成の中期。誰もが触れたくない世界、それでも俺にとっては唯一の選択肢だった。
金がないやつにはチャンスなんて降ってこない。
ただ、それでも何かを掴むにはリスクを取るしかなかった
ただ、街を彷徨う。

『お前、稼ぎたいか?』

背後から突然声がかかった。振り返るとスーツを着た男が立っている。三十代後半くらいか、夜の匂いが染みついた感じがした。警戒する俺に近づいてくる。

『今のままじゃ、何も変わんねぇだろ?』

その言葉にハッとした。図星だった。毎日が同じ繰り返し。変わりたいと思っても、何をどうすればいいか分からない
だが、この男の目は違った
何かを知ってる、そんな目だ。

『俺はスカウトマンだ。
お前みたいな若ぇのを沢山見てきた。稼ぎたいやつ、変わりたいやつ、全員に道はある。
金が欲しいんだろ?普通のバイトじゃ稼げねぇ額を、夜ならすぐ手に入る
ただし、芸能のスカウトとは訳がちげぇ。
やるかどうかはお前次第だ』

スカウトマンの言葉は、俺の心にズシリと響いた。だが、どこか甘い響きがあった。
金、欲しいさ。だが、その代償はでかいこともわかってる。スカウトマンの目は俺を試しているようだ。
これまで何も変わらなかったのは、俺がリスクを避けていたからだ。もしかしたら、この男の誘いに乗れば俺の人生は変わるかもしれない。

「どんな仕事だよ」

そう聞くと、男はニヤリと笑った。

『夜の仕事だ。稼げる奴は稼げる。だが、楽な道じゃねぇ。覚悟がいるぞ』

俺をじっと見つめてくる。その目に逃げ場はない。緊張はある、けどもう引き返せない。俺は一瞬の迷いを押し殺し、頷いた。
それは、決して簡単じゃない道。けど、楽して何かを手に入れるなんて、そもそも幻想だ。俺は覚悟を決めた。

「やるよ」

その一言で、俺の16歳の人生は大きく動き出した。郊外の静かな街とは対照的に、これから始まる夜の世界はどこか不穏で、それでも心の中には、確実に金が手に入る未来のイメージがあった。

稼ぎたい、変わりたい、その一心で俺は夜の街へ足を踏み入れた。

『よし。じゃあ、今から1週間後の今日、南口のリーセスって喫茶店に来い。まずはそこで説明する』

スカウトマンはゆっくりと振り返り、無言で歩いて行った。俺もその背中を追いかける。街の光が、これからの俺の人生を照らし出しているように見えた。


この物語はただのフィクションだけどフィクションじゃない。稼ぐこと、変わることに本気のやつにこそ読んでほしい。夢を掴むには現実を知れ。

次回、「契約の夜」

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