〜松茸City物語〜【第一話】
「都会って、こんなにも人が多いんだな…」
地下鉄の出口から地上に出ると、都会の喧騒が一気に押し寄せてくる。
信号待ちの交差点では、車のエンジン音がうなりを上げ、時折クラクションが短く鋭く鳴り響く。横断歩道を渡る人々の靴音が、コツコツ、カツカツとアスファルトを叩く。
ハイヒールの音が特に目立つ。
「いらっしゃいませー!」「本日限り、全品半額!」商店街からは、店員の呼び込みの声や伝のスピーカーの音が途切れることなく流れてくる。
その合間を縫うように、スマートフォンの着信音や通話する人々の声が混ざり合う。
頭上では、低空を飛行機が轟音を響かせながら通過していく。地上の喧騒も一瞬かき消されるほどの音量だ。
工事現場からはドリルの機械音が断続的に響き、金属が擦れ合う不快な音が耳に突き刺さる。
その横では、カラスが騒々しく鳴き交わしている。
松茸農家の長男である俺は、初めての繁華街に緊張しながら歩いていた。
すると、目の前にドレス姿の妖艶な女性が立ちふさがった。「ちょっと、あんた…どこから来たの?」
「田舎です。松茸農家をやってて…」と、答えた瞬間、彼女は顔をしかめた。「松茸…?あれ苦手なのよね。あの形とか、匂いとか…」
俺は驚いた。
あの美味しさがわからないなんて。
「それはもったいないです。松茸は、こう…香りが豊かで、噛むたびに旨味が…」と熱弁をふるった。彼女は目を見開いて、ニヤリと笑う。「ふーん、そんなに好きなら私を松茸と思って扱ってみる?」
彼女の意図をすぐには理解できず、しどろもどろになっていると、「あら、緊張してるの?ボク、そんなピュアな顔しちゃって」と、彼女は俺の頬を軽く撫でた。心臓が高鳴るのを感じつつ、「そ、そんな簡単に俺は松茸を諦めませんよ!」と、なんとか切り返した。
彼女は笑いながら、「じゃあ、私が好きになれるくらい魅力を教えてもらおうかしら?」と、挑戦的な目を向けてきた。
続く