27 その他の自己抗体:C1q、リポタンパク質、内皮細胞に対する抗体 Other Autoantibodies Antibodies to C1q, Lipoprotein, and Endothelial Cells
Dubois' Lupus Erythematosus and Related Syndromes, Tenth Edition
・今回は日常臨床では注目されない抗体たちについてです。
Duboisのページ数も少なめなので、今回のpearl&mythも短めです。
この章では、SLE 患者における C1q、リポタンパク質、および内皮細胞に対する抗体の臨床的意義と病原性の役割に焦点を当てています。
Pearl:C1qを標的とする免疫グロブリンの存在は、50年以上前にSLE患者の血清から発見された
comment:The presence of immunoglobulins directed against C1q was discovered in sera of
patients with SLE more than 50 years ago(J Exp Med. 1971;134(3):228-241.)
・C1q は、抗原結合抗体と相互作用した後、補体活性化の古典的経路を開始するタンパク質である。
C1qとは補体の古典的経路(Classical pathway)の最初の成分です。補体は肝臓で合成され血中に放出されます。IgMまたはIgGの抗原分子のFc部分に補体成分C1qが結合し、C1qはC1rおよびC1sと複合体を作り活性が始まります。
IgMは1分子で活性が開始されますが、IgGの場合は2分子以上に架橋して活性が開始されます。(そうだったんだ!!)
・classical pathway、lectin pathway、alternative pathwayについてはNRRから綺麗な図です。
Pearl:ELISA法による抗C1q抗体測定は、開発に困難をともなった
comment:Most tests used to measure anti-C1q are solid phase enzyme-linked
immunosorbent assays (ELISAs). However, the development of these
techniques was not straightforward, as it was difficult to optimize them
to distinguish between immune complexes binding to C1q and actual
anti-C1q autoantibodies
・抗 C1q を測定するために使用されるテストのほとんどは、固相酵素結合免疫吸着測定法 (ELISA) である。ただし、これらの技術の開発は簡単ではなかった。それはC1q に結合する免疫複合体と実際の抗 C1q 自己抗体を区別するために最適化することが困難だったためである。 前向き研究が存在しないことから、利用可能な抗 C1q アッセイはいずれもまだ食品医薬品局によって承認されていない。
・確かに、C1qは免疫複合体に結合するので、区別が難しいのは頷けます。。
Myth:抗C1q抗体の臨床的意義は不明である
reality:Subsequently, several groups evaluating patients of different ethnicities have confirmed the strong clinical association between anti-C1q antibodies and the activity of LN.
・他の多くの自己抗体と同様に、抗 C1q の存在は病的な状態と同義ではなく、抗 C1q は健康な人口の最大 10% で検出される。 一方、抗 C1q 抗体は、ヒト免疫不全ウイルス感染症や自己免疫性甲状腺炎など、多くの感染症や自己免疫疾患に関連している。低補体血症性蕁麻疹性血管炎ではこれらの抗体の有病率が最も高く、この症候群のほぼすべての患者で検出される。
・その後、さまざまな民族の患者を評価したいくつかのグループが、抗 C1q 抗体と LN の活性の間に強い臨床的関連性があることを確認した。1992 年に Siegert 氏とその同僚は、SLE 患者 88 名の抗 C1q 抗体のレベルを測定し、その力価の上昇によって、その後 6 か月以内に腎炎、特に増殖性 LN が発生することが予測されることを発見した。2001 年に Moroni 氏とその同僚は、48 人の患者コホートにおいて、抗 C1q 抗体は抗 dsDNA 抗体よりも腎炎活動との相関性が高いことを示唆した。彼らは、活動性腎疾患の検出における抗 C1q 抗体の感度は 87%、特異度は 92% であると報告した。
・トレンデレンブルグ氏らは、48 人の SLE 患者コホートにおいて、抗 C1q 抗体を持たない患者は活動性腎炎を一度も発症していないことを発見した。これは、このバイオマーカーの陰性の予測値が最大 100% であることを示唆している。しかし、抗 C1q 抗体の予測的役割は、非腎性 SLE 再発ではあまり明らかではない。
Pearl:抗C1q抗体は免疫複合体の沈着が同時に存在してはじめて腎障害を増幅させる
comment:The study by Trouw and colleagues in 2004 on murine models suggested that these antibodies amplify inflammation-related kidney damage only in the concomitant presence of deposits of immunocomplexes
・活動性LN患者の糸球体における抗C1q抗体の存在は、その病原性の重要性を強調しているが、これらが腎臓障害とどのように関係するのか、正確なメカニズムはまだ不明である。
・2004 年に Trouw らがマウスモデルで行った研究では、これらの抗体は免疫複合体の沈着が同時に存在する場合にのみ、炎症関連の腎臓障害を増幅させることが示唆された。この仮説は、抗 C1q が SLE 患者以外の人の体内を循環しても腎臓に損傷を与えない理由を説明できるかもしれれない。
・抗 C1q 抗体はマクロファージによる C1q 分泌を誘導し、その後、古典的補体経路を活性化して組織損傷に寄与することも示されている。しかし、これらの抗体が他の臓器ではなく主に腎臓の組織損傷に寄与する理由はまだわかっていない。
Pearl:SLE患者では、IgG抗HDL抗体レベルが高く、血清PON1活性が低い
comment:Delgado Alves and colleagues studied 32 patients with SLE and showed that they had higher IgG anti-HDL antibody levels and lower serum PON1 activity than 20 age- and sex-matched healthy controls
・SLE における抗リポタンパク質抗体の研究は、SLE 患者に見られる心血管疾患発症リスクの増加に抗リポタンパク質抗体が関与している可能性を考えられて進められた。研究対象となった抗原は、高密度リポタンパク質 (HDL) とその主成分であるアポリポタンパク質 A1 (apoA1) およびパラオキソナーゼ 1 (PON1) に対する抗体である。
・HDL はいくつかのメカニズムによって心血管疾患を予防することができる。これらには、①コレステロール逆輸送(アテローム性動脈硬化プラークから肝臓へのコレステロールの除去)と、②HDL に結合している PON1 などの抗酸化物質の存在が含まれる。
・これらの抗酸化物質は、低密度リポタンパク質(LDL)の酸化を阻害することができ、酸化低密度リポタンパク質(oxLDL)はアテローム性動脈硬化の主な促進因子であるため、保護効果がある。
・Delgado Alves 氏とその同僚は、SLE 患者 32 名を研究し、年齢と性別が一致する健康な対照群 20 名と比較して、IgG 抗 HDL 抗体レベルが高く、血清 PON1 活性が低いことを明らかにした。さらに 2 つの研究により、IgG 抗 HDL 抗体が SLE 患者では健常者よりも高いことが確認され、IgG 抗アポ A1 抗体についても同様であることが示された。
・抗アポA1抗体は、非SLE患者の研究でその力価が冠動脈疾患のリスク増加と関連していることが示されている。
・我々は、SLE の非常に初期の 518 人の患者から採取したサンプルで IgG 抗アポ A1 のレベルを検査し、これらのサンプルの 23 % がこれらの抗体が陽性だった。その後、平均 89 か月にわたって追跡調査した 49 人の患者から連続サンプルを検査し (患者 1 人あたり平均 8 つのサンプル)、IgG 抗アポ A1 は、疾患活動性の高い患者、1 日あたり 7.5 mg を超えるプレドニゾロンを服用している患者、抗マラリア薬を服用していない患者で上昇していることを発見した。
・HDL、apoA1、PON1について、ChatGPTで復習です。
*スタチンでこのあたりの抗体は、うごく?
・・・という疑問がでたので文献検索しましたが、スタチンが抗HDL抗体などを下げるかどうかは分かりませんでした。
・しかし、SLE患者にスタチンを入れることで、LDL低下はもちろん、CRPの低下、内皮細胞機能改善、SLEの疾患活動性自体の低下がみられるという報告はありました(Clinical and Experimental Rheumatology 2014; 32: 162-167.)
Myth:抗内皮細胞抗体(AECA)は、SLE患者における疾患活動性マーカーとして提案されており、抗原も特定されている
reality:Hence, AECAs have been proposed as a marker of disease activity separate from anti-dsDNA, though the antigen bound by AECA on the endothelial cells has not been identified yet.
・SLE 患者の抗内皮細胞抗体 (AECA) は、1984 年に Cines 氏とその同僚によって固相放射免疫測定法を使用して初めて記述された。
・AECA レベルは LN グループの方が非腎炎グループよりも有意に高く、SLE群(LN群+非LN群)は、対照群よりも高かったが、抗 dsDNA 抗体レベルとの相関は見られなかった。AECA レベルが高いと腎炎患者の腎生検での活動スコアが高くなり、縦断的データが得られた 16 人の患者では治療後に AECA レベルが低下した。
・AECAは抗dsDNAとは別の疾患活動のマーカーとして提案されているが、AECAが内皮細胞に結合する抗原はまだ特定されていない。一部の著者は小規模な研究に基づいてAECAが神経精神病性SLEのマーカーになる可能性があると示唆しているが、 これはより大規模なメタ分析では裏付けられていない。
・要約すると、15~20 年前には SLE のバイオマーカーとしての AECA の可能性のある役割に大きな関心が寄せられていたものの、最近では同様の関心は続いておらず、AECA アッセイで検出された抗原特異性は明らかでない。
まとめです。。
・ということで、抗C1q抗体は、活動性マーカーとして有用そうですが、測定は実臨床ではまだ難しそう、抗HDL抗体も、CVDリスク評価に使えそうですが、実臨床では測定は難しそう、抗内皮細胞抗体は、微妙そう、という感じです。