【名盤伝説】 “Steely Dan / The Royal Scam” 究極のクリエイターズ・ユニットによる魔界サウンドが堪能できる傑作。
お気に入りのミュージシャンとその作品を紹介しています。スティーリー・ダンの5作目 『The Royal Scam (邦題: 幻想の摩天楼)』(1976)です。
魔界獣が雄叫びをあげる摩天楼の下で、全てを拒絶するように眠る男・・・この風変わりなアルバムジャケットのイラストが、収録曲のイメージ全てを表しているように感じます。鬼才ドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーの2人だけのユニットとして再出発したスティーリ・ダン。究極にまでこだわったサウンド・メイクと、それに必死で応えようとする参加したミュージシャン達の戦いの記録です。
収録曲
M1 Kid Charlemagne
M2 The Caves Of Altamira
M3 Don't Take Me Alive
M4 Sign In Stranger
M5 The Fez
M6 Green Earrings
M7 Haitian Divorce
M8 Everything You Did
M9 The Royal Scam
M1 いきなり変態コード進行の曲からアルバムは始まります。ゆったりとしたテンポですが、リズムパターンは熟練ベーシストのチャック・レイニーでさえも閉口したという細かな指示があったといいます。途中のラリー・カールトンの名演と言われているギター・ソロも、一体どんなスケールで弾いているのかというフレーズの連発です。ソロの後は、ほとんどヤケクソとも思えるリズム隊のハネ方。前作まで参加していたジェフ・ポーカロではグルーヴのニュアンスが合わなかったのでしょうか。今作はゴーストノイズの魔術師バーナード・パーディとハイハットの軽業師リック・マロッタが参加しています。ジェフとは違うニュアンスが欲しかったのでしょうか。
フェイゲンの過酷な要求に必死に応える一流ミュージシャン達。その出来栄えの素晴らしさを一つ一つ受け止めていると、1曲目から聞きどころ満載で疲れてしまいます。
コメントもM1でくたびれてしまいました、すみません(謝)。M2からラストのM9まで、本気で全曲好きです。この独特な世界観は病みつきになります。
話は逸れますが、J-POP界の拘りキング、角松敏生のレコーデイングに参加した某ドラマー氏が語ってくれたところによれば、角松のリズムパターンへのこだわりはドナルド・フェイゲ並みで、ハットやキックのパターンやゴーストノイズまで細かな指示があり、1曲録音を終えたところでヘトヘトになったとのことです。「そりゃ俺だってプロなんだから演ってやる!!」と頑張ったそうです。この方は20代でLAでの武者修行で腕を鍛え、私は日本のヴィニー・カリウタだと思っているほどの大好きなドラマーなのですが、その方にしてこんな感想を漏らすのですから、相当なものだったのでしょう・・・そんなエピソードを思い出しました。
音楽の聞き方とすれば、曲を全体として受け止めて、歌やそのメロディ、そして時にはソロプレーのダイナミズムを楽しむのが普通かと思いますが、ステイーリー・ダンの場合はそうはいきません。多少でも楽器をいじったことのある方なら、是非それぞれのミュージャンのプレイを意識して聞いて欲しいと思います。ともかく細かなこだわりと技が無数に重なり合う、凄いを通り越した変態プレイに圧倒されてしまいます。
彼らのアルバムでは『Aja』(1977)や『Gaucho』(1980)が人気ですが、このアルバムのインパクトが強すぎて、どうしても今ひとつという印象になってしまいます。この2枚も素晴らしいアルバムだとは思いますけどね。
耳を澄まして、レコーディングの様子を想像しながら一生聞いていられるアルバムです。
[追補]
おっとこのジャケットは・・・プログレ5大バンドの一つ Genesisの『Selling England By the Pound (邦題: 月影の騎士) 』(1973)です。アートワークは画家ベティ・スワンウィック氏の「The Dream」という作品だそうです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?