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よからぬことを

専門学校へ出掛ける前の二時間
保育園で早朝のアルバイトをしていた。
子どもたちが登園する前に、
テラスのモップ掛けや棚の清掃が主な仕事だ。
続々と登園するやんちゃな子どもたちに
絡まれながら任務を遂行する。

運動会の一週間前
くす玉製作の依頼を受ける。しかし、
バイトの出動日は、月水金の三日間しかない。
いつもの清掃を多少免除されたが、
限られた時間の中で進めていかなければ
期限も、学校にも間に合わない。

『ここで作業してね』と、園長に教えてもらった
倉庫には行事用の品々が所狭しと置かれていた。
密室でひとりほくそ笑む。
誰もいない、見られない、ヤバいわたし発動。
選び放題の品々から、ひときわ存在感を放つ
キラッキラの三角パーティー帽を拝借して装着。
いざ、くす玉作りへ

既に出来上がっている二つのお椀の型をした
骨組みを合わせて、丸いくす玉にする。
先生から教えてもらった手順を確認しながら、
途中、紙吹雪を中に入れ骨組みの周りに
新聞紙を貼り付け頑丈にしていく。
だが、パカッと割れるつなぎ目部分は薄く
割れ易くしなければならない
薄すぎても厚すぎてもダメらしい
最後に綺麗な紙を貼り付けて完成となる。

慎重に新聞紙を貼り付けておきながら、
密室の任務は、よからぬことを考える。
くす玉を割ろうと、必死にお手玉を投げる子どもや
大人たちが『キーキー』と唸るぐらい硬く
割れないものを作ってみたい。
ペタペタと幾重にも貼り付けたい衝動にかられる。

そんな時、頭の中を竜兵ちゃんが横切る。
『押すなよ、押すなよ、絶対に押すなよ』
わたしはそれに合わせて、
『貼るなよ、貼るなよ、絶対に貼るなよ』
つぶやいていたら、突如ドアが開いた。
『楽しそうだね』背後から若い先生の声がする。
ああ、熱湯風呂へすべり落ちた。

後ろ姿だが、充分赤っ恥をかいている。
三角パーティー帽のわたしは、
白目をむきながらゆっくりと振り返る。
『あは、それ私が作った帽子だよー』
まさかの製作者との出会い。
『ええぇ、可愛いから被っちゃた』
『でしょう、嬉しい!』
この恥ずかしい状況下で
パーティー帽に救われた感じであった。
『急なお願いでゴメンね、頑張って』
『はいっ』


実際の運動会は見学していないけれど、
先生たちからのクレームは一切無かったので
無事に割れたと信じている。
任務完了 『ヤー』


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