
生き残りを救え。
なんでだろう。ドラマクイーンのような、普通の出来事をドラマチックに振る舞う人に会うとうっとりしてしまう。見ていて本当に楽しい。でも悲しいことに最近はとんと出会わない。
日常会話を芝居がかった大げさな演技にしてしまうと皆に嫌われてしまうから、彼や彼女は年を経るごとに段々まるくなってしまうのだろう。残念だ。文字通りドラマみたいで楽しいのに。
でもこの間、時計の電池交換でドラマクイーンの生き残りに出会えた。愛用している時計の電池交換に行き、受付のお姉さんに来店理由を伝えると、店の奥から30代前半の男性が出てきた。彼は私の時計を10秒間じっくり眺め「な・る・ほ・ど、なるほどなるほど……うん。」と言った。「生き残りだ!」とぽうっとした。
彼は「この時計は何回くらい電池交換しましたか?」と聞き、私は「3回です」と答えた。そして受付のお姉さんに30分後にまた来てくださいと言われた。
彼の「なるほど」におそらく意味はないとは思いつつも、私は絶滅しつつあるドラマクイーンに今後出会える可能性はないかもしれないと考え、30分後に再びお店に行ったとき受付のかたに思い切ってこう切り出した。
「すみません、さっきの『なるほど』ってどういう意味だったんですか? 高くはないけど気に入っている時計なので、もし何かトラブルがあるなら知っておきたくて」。もちろん嘘だ。ただ単に彼ともう一回遭遇したい一心だった。
店の奥から気だるそうに来た彼に受付のお姉さんが事情を伝えると、彼は「あぁ、そっちか」と言った。くらくらした。そっちかと言ったけど、絶対もう一個のほうは存在しない。彼はただ単に「なんとなくそれっぽいこと」を言う癖があるのだろう。クレームになるかもしれないリスクを犯してまで(多分そんなこと考えてもいないだろうけど)ドラマクイーンを貫く彼にぐらっときた。面白い。
彼は一応「電池交換を3回していると、チェックしないといけない部分が増えるので聞いたんす」と教えてくれた。本当は、もっともっと不思議な彼の言動を引き出したかったけど、とある女の子との待ち合わせ時間がギリギリだったので泣く泣く店をあとにした。
ーー待ち合わせ場所のスタバへと向かう途中、私は受付のお姉さんに渡された時計の健康状態の紙をなんとなく見た。3回電池交換をしたらチェックするらしい項目が「チェック済」ではなく「チェック未」の方に丸がついていた。うっとりした。
おそらく私が店に引き返して彼に問い合わせたら、彼は「うん、なるほど。でもこういう見方もあるとは思いませんか〜」と、よくわからない理由をつらつら話してくれるのだろう。会いに行きたいが、デートが迫っている。つらい。
ーー彼は近いうちに確実に、別の誰かから結構なクレームを受けると思う。ドラマクイーン気質は鳴りを潜めてしまうかもしれないし、そうじゃなかったら別の店舗に飛ばされてしまうだろう。だから彼と会うことはきっともう二度とない。
そのほうがお客のためにはいいとは思いつつ、ドラマクイーンのかたは面白いので、いつかまたどこかで別の誰かと出会いたいと思う。みなに幸あれ。