
もし君と同一化したら「主人格」は僕でいい?
不思議なことに、100人に1人くらいの確率で、私の発言がツボに入る人がいるようでかなり仲良くしてくれることがある。
たまたま1/100だったある女性と話していたら何かの文脈で「いっそあおさんの身体と同化して世界を見たい」と言われたので思わず「主人格は僕でいいですか?」と聞いたら引くほど怒られた。ごめんて。
いや実際は、その人から好意を超えた恋の香りが少し前からしていて適切な距離を保たないとと思っていた矢先だったから、結構わざと言ったのだった。「同一化したい」なんて言葉を人生で言われるなんてと驚いた。2年前の話である。
そしてしばらくして、100人に1人くらいの確率で私の発言がツボに入ったという別のかたと知り合った。その人からの恋は全く感じないが、私はしっかり好意を超えた恋がある。だから話せるだけで嬉しい。
普通に受け答えをした内容がその人にとっては突飛に聞こえるようで、それが楽しかったみたいで、電話で人生2回目の「あおくんの身体に入って世界を眺めてみたい」を言われた。
私が冗談っぽく「主人格は僕でもいい?」と聞くと、予想外に「もちろん」と返って来た。もちろんいいよ、私はこんこんと寝続けたり、ときどき起きてあおくんの世界を眺めて楽しむだけでいいし毛細血管にいるよ、と。
くらくらした。
私はこういう変わった人が大好きなのだ。人格を奪われるって結構なことだと思うのだけれど、彼女は当然のように「もちろん」と言った。しかもその人は人生を大いに楽しんでいる。日々の逃げ場として主人格を譲るという、間接的な世界からの退散を求めているわけではないのだ。
くらくら、くらくら。そうして少しだけ話して電話を切った。
でも切ったあと、しばらく考え込んでしまった。もし同一化してしまったら、私はもう彼女の姿を見ることは出来ない。毛細血管は自覚できないし、私の細胞や筋繊維の中をたゆたっているのを感じられそうにもない。腸内フローラの荒れ具合を知られるのも恥ずかしい。
しかも彼女は特に私に恋愛的な好意は抱いていない。今後の可能性もないから諦めないといけないだろう。でももし、私が先々べつの誰かに惹かれてしまった場合、私が誰かと話しているのを、彼女も私の中で見ることになるのだ。彼女はそれでいいかもしれないけど、なんだか意味のわからない二股をしている気持ちになりそうだ。どうしよう、同一化が怖い。
そんなことを考えていたら目が冴えてしまい、結局夜中の3時過ぎまで眠れなかった。
ーー多分こういうところが、100人に1人くらいの誰かに刺さるのだろうなとぼんやり感じながら、でも残りの99人からは気持ち悪がられるのだろうなと冷静で明確な結論に達して泣いた。
モテる男への道はまだ長い。