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愛知県公立中高一貫校の話題について その1

来年度から愛知県では初めての公立中高一貫校が開設されることになった。ここにきて報道も増えてきた。先月にテレビのニュースで報じられた内容を引用しておく。

中学校受験が過熱している。「公立王国」とも呼ばれる愛知県でも2025年春、初めて公立の中高一貫校が誕生する。伝統校に一足早く入れると人気が高まっているが、背景には少子化への危機感がある。

■狙いは“人材育成”と“人気回復”…愛知に初「公立の中高一貫」開校へ
愛知県に2025年、「公立の中高一貫校」が初めて開校する。明和・刈谷・半田・津島の4校で、いずれも地域を代表する伝統校だ。授業料は他の公立中学校と同じく、無料なことも魅力となっている。 入学試験にあたる「適性検査」は、私立中学とは出題傾向が異なる。 8月に行われた明和高校附属中学校の説明会は、入学を希望する親子でほぼ満席となり、人気のほどをうかがわせた。 愛知県は中高一貫校を設置する狙いとして「チェンジ・メーカーの育成」を掲げている。目まぐるしく変化する時代に、答えのない課題に対して自ら考え、粘り強く取り組む人物を育てたいという。

愛知県教育委員会の小野智之さん: 中学と高校の間に受験がなくなりますので、そうしますと学びにゆとりが生まれる。自分がこんなことに興味がある、追求したいということがあったときに、それを6年間ずっと継続してやれるということが一番大きいと思います。

開校の背景には「人材の育成」だけではなく、中高一貫校の設置には公立校をとりまく厳しい現状がある。少子化が進む中、愛知県の県立高校では定員割れが相次ぎ、2024年春の入試では144校のうち、77校でおよそ2000人の欠員が出た。 2022年度には約7万人だった中学校の卒業者は、2035年度には5万7千人と、1万人以上減少するとみられている。 私立校などの中学受験が過熱しているが、県立高校は“存続の危機”にあり、「中高一貫校」は人気回復の起爆剤になることが期待されている。

説明会に参加した子供A: 生徒主体のところとか、新しい学校なので、学校づくりの一番初めの人になれるというのが嬉しい。
説明会に参加した子供B: 総合的な学習や、自分のやりたいことをやれるのがいいなと思いました。
説明会に参加した親: 途中で高校受験のために止まってということがなくなるのと、やっぱり学校が変わった時に違う学びに変わってしまうじゃないですか、そういったのが減らせられるのではないかと。

■倍率は10倍以上の“狭き門”か 問われるのは「考える力」
進学塾の名進研は、2023年3月から公立中高一貫校専門のコースを始めた。 新たに開校する公立中高一貫校の普通科の定員は、各校わずか80人と狭き門で、倍率は10倍以上になるともいわれている。 2025年1月に行われる入学者選抜は、学力を測る「適性検査」と「面接」の2段階で行われる。 愛知県が公表している「適性検査」のサンプル問題は、新城市の特産品「八名丸さといも」を紹介するというもので、1問目では、さといもを紹介する原稿を作成する。 用意された7つの文を適切に並べ替え、2つの文章にする。 難しい単語や言葉遣いはないが、文章を読み解く国語の力が問われる。 煮物を作るための水と水蒸気に関する問題では理科の知識が問われるなど、回答はすべて選択式だが、教科の枠を超えた「考える力」が必要だ。

名進研の金澤篤社長: 論理的に考えて行かないとたとえ選択問題といえ、非常に骨の折れるような内容だと我々は感じています。単純に知識を詰め込むというだけの学習で対応できるものではなくて、いかに持っている知識を組み合わせながら、そして色々と判断しながら答えに辿り着いていくという、そういった力が求められてくると思います。

名進研で行われた理科の授業では、「植物がでんぷんを作ること」をただ覚えるだけでなく、「どんな実験をすれば、効率よくデンプンが作れるのか」についても生徒が積極的に発言していた。 こうした“考える力”を養うことで、公立中高一貫校対策を進めようとしている。そして、中学受験の選択肢が増えることで、全体の受験者はさらに増えるといわれている。

名進研の金澤篤社長: 今まで中学受験を考えていなかった層が、公立中高一貫校の誕生によって中学受験を考えるというようになってきました。中高一貫校の魅力というのが、より理解されたことだと我々は考えていますので、中学受験そのものの受験する家庭が増えて、活性化につながるんじゃないかなと考えています。

塾に通う生徒の親からも、公立だからこそ受験を決めたとの声もある。

生徒の母親: 私立の中高一貫校というとやはり金銭的な負担が大きくて、公立の中高一貫校なら受験させて、もし受かれば行かせてあげるかなと思いました。

公立の中高一貫校に高まる期待。過熱する中学受験に新たに何をもたらすのか。

■中高一貫校 実は既に41都道府県で設置…6県に設置されていない理由は公立の中高一貫校は愛知県だけでなく、東海3県としても初めての試みだ。しかし、全国ではすでに41都道府県で設置されていて、2024年度の時点で導入されていないのは愛知、岐阜、三重の東海3県と、富山、鳥取、島根のあわせて6県だけとなっている。まだ設置されていない6県は、いずれも公立校が強い地域とされている。愛知県も「公立王国」と呼ばれるなど、公立高校の人気が高いため、中高一貫校の導入などの改革があまり議論されてこなかったのではないかともいわれている。

中高一貫校の取り組みを始めることで、公立校の魅力アップにつながるのか、子供たちの未来にプラスになるのか。

2024年9月11日 東海テレビ

選択肢が増える点では公立中高一貫校の設置は良いことだと思う。しかしその内実には多くの問題を抱えているとも感じている。今日はその点について書いていく。

まず指摘したいのは初年度から選ばれた4校とこの記事で書かれている公立高校の課題の齟齬である。2025年度から中高一貫校になった4校は以下の特徴を持つ。

・明和…名古屋市の官公庁街にある旭丘と並ぶトップ校 編65 内申42
・刈谷…西三河で岡崎に続く2番手校 編60 内申39
・半田…知多半島のトップ校。周辺人口減少で近年易化 編58 内申38
・津島…西尾張の伝統校。周辺人口減少で地盤沈下気味 編50 内申30

明和、刈谷、半田は紛れもない「進学校」である。半田が近年やや倍率を下げているが明和と刈谷は人気があり合格を勝ち取るには熾烈な競争が必要である。津島は20年ほど前までは進学校であったが徐々に倍率を下げて現在は中堅校となった。それに伴い西尾張の津島周辺には進学校が無い状態になっている。名古屋市まで出て松蔭に行くか、北部に住む生徒は自転車で五条に行くか、更に電車で一宮に行くのが進学校の選択肢になるが、それなりに通学時間が掛かる距離になる。因みにここで挙げた五条は数年前までは進学校であったが厳しい学習指導が敬遠されここ2年ほど定員割れになっている。

教委は「公立校離れを食い止める」とその目的を謳っているが、それならば現状定員割れを起こしている高校こそ中高一貫校にするべきではないかと思う。しかし3校は人気のある進学校、津島も西尾張では数少ない定員割れを免れている高校である。結局、今回の施策は不人気校から更に受験生が減少する悪循環を助長するように見える。

なぜこんなことが起こるのかというと、公立高校の定員の見込みが甘いからである。また40人の倍数にずっと拘っているからでもある。定員割れが常態化している高校はもっと定員を絞って現在のフリーパス状態を脱する必要がある。また25人などの少人数クラスにしてきめ細かい指導をする方向への改革が急務と考える。そしてそれらの高校にこそ中高一貫コースを設置するべきだと思うのだ。

これがされない理由は以下の2点ではないだろうか?
1つ目は「名が通っている学校名である必要があった」という点だ。志願者のご家庭はやはり「ブランド志向」がそれなりに強いと想像できる。それらの家庭には「丹羽」や「半田東」では訴求力が無いと判断されたのであろう。1,2年目から生徒が集まらないのは許されない。したがって明和や刈谷が選択されたと考えるのは想像に難くない。
2つ目は「交通の便が良い場所である必要があった」という点である。高校生であればある程度の距離を自転車で通学するのは容易であるが、12歳の子にとってのソレは厳しいものがある。したがって公共交通機関の充実した学校を選ぶ必要があった。そうなると現在の人気校が選択肢に上がるのであろう。

しかしそうなると「チェンジ・メーカーの育成」とは裏腹の人材が集まる可能性が高いような気がする。21世紀に入って教育のあらゆる場所に資本主義の論理が入り込んだ。その論理を内面化した人が中高一貫を選ぶ人に多いのは間違いない。それは「チェンジメーカー」ではなく「フォロワー」である。ちょっと不便な土地でも中学生に自転車で通わせる気概こそがチェンジメーカーでは無いだろうか。

もう1点記事内で気になる箇所がある。それは多くの受験生が「対策授業」を学習塾で受講している点だ。私もこの予想問題のサンプルをいくつか見たがなかなか面白い問題に仕上がっている。その上で「入試対策」をするべきではない種類の問題であると感じた。じゃあどうしたら良いのか?と言うと5,6年のどこかの時期に小学校で全員にこのテストを受けてもらい、成績優秀者には推薦状を出して中高一貫校に入学する権利を付与するのが望ましいと考える。これを学習塾経営者の私が言うのはおかしいのかもしれないが真剣である。結局は「子どもの能力」と同程度「保護者の情報収集力」が合否を分けるようになるからである。そして「対策授業」を経て受かった子どもたちに「チェンジメーカー」を期待するのは矛盾していると思う。

長くなったので次回「その2」に続きます。

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