来年度から愛知県では初めての公立中高一貫校が開設されることになった。ここにきて報道も増えてきた。先月にテレビのニュースで報じられた内容を引用しておく。
選択肢が増える点では公立中高一貫校の設置は良いことだと思う。しかしその内実には多くの問題を抱えているとも感じている。今日はその点について書いていく。
まず指摘したいのは初年度から選ばれた4校とこの記事で書かれている公立高校の課題の齟齬である。2025年度から中高一貫校になった4校は以下の特徴を持つ。
・明和…名古屋市の官公庁街にある旭丘と並ぶトップ校 編65 内申42
・刈谷…西三河で岡崎に続く2番手校 編60 内申39
・半田…知多半島のトップ校。周辺人口減少で近年易化 編58 内申38
・津島…西尾張の伝統校。周辺人口減少で地盤沈下気味 編50 内申30
明和、刈谷、半田は紛れもない「進学校」である。半田が近年やや倍率を下げているが明和と刈谷は人気があり合格を勝ち取るには熾烈な競争が必要である。津島は20年ほど前までは進学校であったが徐々に倍率を下げて現在は中堅校となった。それに伴い西尾張の津島周辺には進学校が無い状態になっている。名古屋市まで出て松蔭に行くか、北部に住む生徒は自転車で五条に行くか、更に電車で一宮に行くのが進学校の選択肢になるが、それなりに通学時間が掛かる距離になる。因みにここで挙げた五条は数年前までは進学校であったが厳しい学習指導が敬遠されここ2年ほど定員割れになっている。
教委は「公立校離れを食い止める」とその目的を謳っているが、それならば現状定員割れを起こしている高校こそ中高一貫校にするべきではないかと思う。しかし3校は人気のある進学校、津島も西尾張では数少ない定員割れを免れている高校である。結局、今回の施策は不人気校から更に受験生が減少する悪循環を助長するように見える。
なぜこんなことが起こるのかというと、公立高校の定員の見込みが甘いからである。また40人の倍数にずっと拘っているからでもある。定員割れが常態化している高校はもっと定員を絞って現在のフリーパス状態を脱する必要がある。また25人などの少人数クラスにしてきめ細かい指導をする方向への改革が急務と考える。そしてそれらの高校にこそ中高一貫コースを設置するべきだと思うのだ。
これがされない理由は以下の2点ではないだろうか?
1つ目は「名が通っている学校名である必要があった」という点だ。志願者のご家庭はやはり「ブランド志向」がそれなりに強いと想像できる。それらの家庭には「丹羽」や「半田東」では訴求力が無いと判断されたのであろう。1,2年目から生徒が集まらないのは許されない。したがって明和や刈谷が選択されたと考えるのは想像に難くない。
2つ目は「交通の便が良い場所である必要があった」という点である。高校生であればある程度の距離を自転車で通学するのは容易であるが、12歳の子にとってのソレは厳しいものがある。したがって公共交通機関の充実した学校を選ぶ必要があった。そうなると現在の人気校が選択肢に上がるのであろう。
しかしそうなると「チェンジ・メーカーの育成」とは裏腹の人材が集まる可能性が高いような気がする。21世紀に入って教育のあらゆる場所に資本主義の論理が入り込んだ。その論理を内面化した人が中高一貫を選ぶ人に多いのは間違いない。それは「チェンジメーカー」ではなく「フォロワー」である。ちょっと不便な土地でも中学生に自転車で通わせる気概こそがチェンジメーカーでは無いだろうか。
もう1点記事内で気になる箇所がある。それは多くの受験生が「対策授業」を学習塾で受講している点だ。私もこの予想問題のサンプルをいくつか見たがなかなか面白い問題に仕上がっている。その上で「入試対策」をするべきではない種類の問題であると感じた。じゃあどうしたら良いのか?と言うと5,6年のどこかの時期に小学校で全員にこのテストを受けてもらい、成績優秀者には推薦状を出して中高一貫校に入学する権利を付与するのが望ましいと考える。これを学習塾経営者の私が言うのはおかしいのかもしれないが真剣である。結局は「子どもの能力」と同程度「保護者の情報収集力」が合否を分けるようになるからである。そして「対策授業」を経て受かった子どもたちに「チェンジメーカー」を期待するのは矛盾していると思う。
長くなったので次回「その2」に続きます。