ラストマイル(ネタバレあり)
子の夏休みの最後の日、つまり9月1日に見た。つまり既に50日経っているわけだが、感想と自分の思いを書いていくことにする。
さすが塚原、野木、新井トリオと思わされたのは、この映画が正に2024年を切り取っている点である。私はケータイやネットサービスはある程度一巡してから活用する人間である。発売日に行列に並んでゲットというタイプではない。そんな私が「もうすぐ11月か、ブラックフライデーがあるな」と自然にインプットされた元年が今年だったからである。去年まではその文字を見て「あーアメリカの慣習ね」と受け止めていたのがクリスマスやハロウィンのように生活の中に入ってきた。そんな一般人の日々の細部までネット通販が入り込んだタイミングで公開はTHE2024映画と言えよう。
話の舞台になるデリファスは数人の正社員とおびただしい数の非正規労働者によって成り立っていることを示す物語の序盤、まだ事件が起こる前から現代社会の便利さを支える下に殺伐とした無機質な世界があることを示している描写が見事だった。そしてその後に起こる連続爆破事件もいつどこで段ボールが爆破するか分からない怖さが相まって引き込まれた。下請けの運送業者や末端の配達員の描写もリアルで胸が痛くなった。
けれども映画全体としてはやや期待を裏切られたと感じている。前半は主人公のエレナが爆破事件の犯人だと感じさせる描写がいくつかある。捜査にやってくる刑事に面倒そうに対応する主人公。この辺りはスリリングでどんな展開になるのかワクワクした。しかし彼女が犯人ではないと判明した後に「では誰が犯人なのか?なぜこんな恐ろしい事件を起こしたのか?」の部分が「えっこんな個人的なことなのかよ」という動機でがっかりしたからだ。
主人公の2人と上司の五十嵐、過去にこの倉庫で自殺未遂を図った元社員とその恋人だった真犯人の女性がストーリーの幹になる人物だろう。これらの人物があまり深く描かれずに感情移入できなかった。はっきり言えば魅力的だと感じれらなかった。反対に枝葉である下請け業者の八木や末端の配達員である佐野親子、そして終盤の大切な場面に繋がる松本一家の方が弱者であるからという点を差し引いても魅力的に感じられた。これは普段テレビドラマを中心に制作している面々の弱点が浮き彫りになったのかもしれない。2時間の話では主人公や犯人の人となりを丁寧に描写することはできないからだ。
アンナチュラルとMIU404はテレビドラマ史に残る名作だと私も感じている。これらのドラマは全話を通しての縦糸が貫かれる中で、各話の中で横糸が通されていて、その中で主人公たちの人間性や背景が少しずつ明らかになりハマっていったし応援していった。しかしこの横糸がラストマイルには欠けていたのが期待に届かなかった理由であろう。これらの作品とのコラボの具合は程々で適当と感じられた。最後はMIU404の機捜チームが事件を解決するのではなく、あくまでもラストマイルの面々がそこを担ったのはよかったと思う。
ここからは私の思いについて書いていく。10年くらい前に妻と意見がぶつかったことがある。妻は百均での買い物が非常に好きな人間である。しかしあまりに簡単に色々と買ってダメになったらすぐに捨てる様子を見て「僕にとってはあまり好きな消費行動ではないな」というようなことを話した。更にAmazonの通販が一般的になった時もだ。「重たい米を買わなくても良くなったわ」と喜ぶ妻に「でも結局それを宅配業者にさせているだけだからなぁ、健康で体が動くうちは米くらいは運ぶのが人間らしい生き方じゃないかな」と話したことがある。それから米をスーパーに買いに行くのは私の役割となったw
どうも「金を払っているから」「便利だから」と他人を安く使うことに抵抗があるのだ。今回の映画のテーマとして「犯人は現在の便利な生活を享受している人々全員」があると思う。これを多くの人は「確かに!」と驚いたようだが、私にとってはずっと持ち続けていた問題意識だった。これは私が個人事業主で客としての立場の時間より、サービス提供者としての時間の方が長いことも影響しているだろう。
次に「レアな事件や事故がどれだけ悲惨であっても、それで世の中のシステムが変わってはいけない」という意見を私は内面化している。元社員がベルトコンベアーの上に飛び降りて瀕死の重傷を負い、しかし一瞬止まるだけでまたベルトコンベアーは動き始めた。それを「人間は代わりのいるコマ」として悲劇的に象徴的に描いていたが、私はここはそれで構わないと思う。こういう行為で世の中が立ちどまるのは選挙ではなくテロで世の中を変えることと同義だからである。塚原氏や野木氏のドラマに対して滅茶苦茶ハマる時と彼女らの弱者への同情が強すぎるからか「ちょっとそこまでは肩入れできませんよ」と感じてしまう時とがある。ラストマイルはその後者の面がチラッと出たような気がする。
最後に私の塾に通っていた幼馴染で、満島ひかりと岡田将生に似ている男女がいた。満島ひかり似の女子の方に先日バッタリ会ったのでその話をすると周囲から「ラストマイル」と呼ばれているらしい笑。ツーショットの場面で意味もなくニヤニヤしていたのはそれが理由だったが、誰もそのニヤニヤは見ていないだろう。