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ハーフマラソンの記録と理系女子

2025年2月2日は日本の陸上長距離界において歴史的な日となった。午前中に行われた丸亀ハーフマラソンでは、従来1時間ジャストだった日本記録がトヨタ自動車の太田智樹によって一気に33秒も更新された。また3秒後の日本人2位には駒澤大学の篠原倖太朗が入り、学生記録も59分30秒という未知の領域に足を踏み入れる形となった。今回は高速コースの丸亀が日本学生選手権も兼ねることになった事情もあるが、篠原を含む14人の日本人学生が61分を切るという長距離種目のスピード化、箱根駅伝の高レベル化が如実に示される形となった。個人的にはこの14人が8つの大学から輩出されたことが喜ばしい。しかも青山学院大学と創価大学の選手はそこに入らない。ちょうど1カ月前の箱根駅伝2区では創価大の吉田響と青学大の黒田朝日が65分台を出した。箱根2区の65分台はハーフ59分台の価値と同等と感じているので、本当に数多くの大学の選手がこの1カ月に素晴らしいタイムを出したことになる。

また同時スタートの女子でもダイハツの加世田梨花が1時間7分53秒の日本歴代4位で、岩谷産業の川村楓が1時間8分58秒の日本歴代22位でゴールした。

しかしこれだけで終わらなかった。午後に開催された別府大分毎日マラソンでは、青山学院大学の若林宏樹が2時間6分7秒の初マラソン日本最高&学生最高のタイムを叩き出した。若林は常勝青学の箱根5区山登りを3回担当した名選手であるが、昨日のレースで引退を宣言していた。学生の6分台は2024年の大阪マラソンで優勝した國學院大學の平林清澄以来2人目である。平林の記録は従来の学生記録を1分半も塗りかえるタイムだったのでしばらくはトップに君臨するものだと思っていた。しかし1年も経たないうちに更新されたことになる。また8分台で青学の白石光星と國學院の高山豪起がゴールした。それぞれ学生7位と8位の好タイムである。たった3年前まで学生で2時間10分を切った選手は3人しかいなかったのに、上記の結果で12人となった。まだ好タイムが期待できる大阪マラソンが2月に、東京マラソンが3月に開催される。箱根で毎年好走している黒田や太田蒼生の走りに注目が集まるだろう。

さて今日のnoteはここからが本題である。昨日の丸亀ハーフや別府大分マラソンの男子は日本記録に近いペースでありながら、中間点くらいまでは大集団を形成していた。どちらも外国人ランナーを含めて30人程度の集団で先頭を走っていた。対して丸亀の女子のレースはユニクロ所属のオマレが一人飛び出し、日本人トップの加世田もテレビに映った7,8kmの地点では既に一人旅だった。これは男女同時スタートのレースなので程よい男子選手がペースメーカーになりやすい事情もある。しかし女子単独レースである先週の大阪国際女子マラソンにおいて、5㎞地点で既に日本人選手5人とアフリカ人選手2人、それにペースメーカーの選手が4人で構成される小さな集団になっていた。大阪国際女子にしろ名古屋ウィメンズにしろ10㎞地点で30人を超える大集団と言うことはほとんどない。対して福岡国際マラソンや大阪マラソンでは昨日の別府大分のように20㎞までは30人程度の集団になることがほとんどである。

簡単に言えば男子はトップレベルの選手の人数が多く、女子は少ないということになる。これをハーフマラソンの上位50傑で調べてみることにする。

男子1位 太田智樹 59分27秒 2025丸亀
男子50位 島田晃希 1時間0分56秒 2025丸亀
     富永椋太 1時間0分56秒 2025丸亀
     延藤 潤    1時間0分56秒 2020山口
女子1位 新谷仁美 1時間6分38秒 2020年ヒューストン
女子50位 藤永佳子 1時間9分29秒 2001年神戸

余談にはなるがこのデータだけでも昨日の丸亀ハーフが異次元の高レベルだったことが分かるだろう。更に50位のタイムに3人が並んでいることが男子のタイムの密集を予感させる。また女子の1位と50位が新谷と藤永という高校駅伝1区で歴史的な走りをした二人が奇しくも並んだ。

では本題に移ることにする。1位と50位のタイム差は男子が1分29秒、女子が2分49秒と予想通り男子の方が密集していた。データを更に細かく見ると興味深い違いがあった。

この上位50傑の記録が出た年を羅列してみる。
【男子】
2000年…1 2007年…1
2012年…1 2014年…1 2015年…1 2017年…1
2020年…7 2021年…1 2022年…13 2023年…7 2024年…7
2025年…13
全て2000年以降のタイムで50傑が構成される。厚底シューズが普及した2020年以降は記録ラッシュ状態になっている。そして2025年の13は全て昨日の丸亀ハーフである。人類史上最も多くの選手が61分を切った日とカウントして間違いないと思われる。
【女子】
1992年…1 1995年…1 1996年…1 1999年…1
2000年…4 2001年…5 2002年…2 2003年…1 2004年…1
2006年…1 2007年…3 2008年…2 2009年…1
2011年…1 2013年…1 2014年…1
2015年…2 2017年…2 2019年…3
2020年…4 2021年…2 2022年…3 2024年…4
2025年…2
男子とは様相が異なり上位50の記録が30年間に散らばっている感じである。厚底シューズが普及してからは23年以外は複数の記録が入っているが、記録ラッシュという年や大会は無い。

要はトップレベルで競技をしている人数の層が全く異なるのである。他に似た事例としてテニスが挙げられる。世界のランキングにおいて「男子の1位と100位の実力の差は女子の1位と10位の差よりも小さい」と聞いたことがある。勝ち負けであるとか体を酷使するとかの面においては、やはりこれらの競技は男性の方がより親和性が高いのであろう。始める間口が男女であまり差のない陸上やテニスでもこれだけの差が付くのだ。

市民ランナーとして大会や集団の練習に参加する時に感じることがある。「男女比が理系クラスだな」と。大体9:1~7:3に収まる。これは私の高2や高3における理系クラスの時とほぼ同等だ。(大学は国立の農学部であったためか綺麗に半々であった。ただ親友のいた工学部は9:1だった)

昨今「理系女子」の少なさが問題視されることが多い。東京科学大学(2024年10月に東京工業大学と東京医科歯科大学が統合し誕生)の総合型選抜と学校推薦型選抜において「女子枠」が導入されることは大きなニュースとなった。
しかしこれには首を傾げてしまう。そもそも最初から工業系やその他の理科系においては男性の方が親和性が高く、興味を持つ人が多いのではないだろうか。世間で話題になるのはいつも偏差値の高い大学のソレであるが、例えば私の居住地から程近い2つの工業高校(愛知の公立は工科高校と呼称)では女子の割合は5%に満たない。また2年前に子どもを連れて名古屋に鉄道模型を走らせるイベントに参加したが、見事に25人の小学生は全員男子であった。長男は4,5歳の頃に電車を見に行くのが好きであったが、幼馴染の同い年の女の子と一緒に行くこともたびたびだった。長男が電車を待って左右をキョロキョロしている間、その女の子は足元に咲く花をいつも摘んでいた。「違うよね~」と何度も親同士話題にしたものだった。
話が横道に逸れたが、要はこういう工業高校において女子が入ってこないことは問題視されない(商業系の高校に男子が少ないことも同じ)。八潮で行われている下水管の作業はテレビで見る限りほぼ男性のみで行われているが、そこに対しても「なぜ女性を作業員に入れないのか?」とか「女性の視点で救出方法を多角的に検討することは大切ではないだろうか?」の議論は出ない。結局、社会の上澄みだけ男女平等を形式的に行おうというのが実情ではないだろうか。

この構図を冬のロードレースを見るといつも思い浮かべる。このnoteを読んで興味を抱いた方は是非2月24日の大阪マラソンの男子の20㎞地点、3月9日の名古屋ウイメンズマラソンの女子の20㎞地点の人数をチェックしてもらいたい。99%男子の方が拮抗して多くの選手がやってくると予想される。ある意味では女性の可能性が開かれていないと考えるのだが、理系と違ってそのような声が上がらないのはなぜなのだろうか?



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