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子どもたちの変化を考える その7

2019年の中3世代に話を進める。様々な切り口はあるのだけれど、この世代で印象的なのは「家で叱られたことがありません」と話す女子生徒が3人いたことである。更に付け加えると親御さんも「怒ったことはないですね」と話していた。彼女らの行っていることが誇張したものでは無いんだと正直驚いた。

ただ「叱らない」と言っても3人の家庭はそれぞれ違う雰囲気があった。
Mさんの家庭はとにかく家族がフレンドリー。よくホームパーティーをするようで、他の塾生で参加したことがある子も多かった。いつも無地のパーカーに色つきの眼鏡をしたお父様が個性的な方で、パーティー中もずっと面白い話や一発ギャグをして笑わせるそう。酒が入ると奥さんを寄せて「俺は世の中で一番可愛いのは〇〇ちゃん(奥様)、次に可愛いのは△△(Mさん)そしてカッコいいのは俺!」と、娘の友人の前で普通に宣言するとのこと。そこにお兄さんも「カッコいいのは俺だろ!」と入ってきて、娘はそれを嫌がらずに「うちの家族サイコーでしょ!」とニコニコと。新世代だなあと感じることが多かった家族だった。

Nさんの家庭はもう少し個で過ごす時間が長いようで、二人のお姉さんも含めて5人がそれぞれの動画や音楽を聴いているようなご家庭だった。それでも月に一度くらいは皆で映画に行ったり、三月に一度くらいはライブやテーマパークをワイワイ楽しむようで、そんな思い出話を時々してくれた。

Oさんの家庭は少し事情が異なる。元々は厳しい家庭だったようで、上のお兄さんにはそのような教育方針で接していたそう。しかし進学校に進んだ後一気に反抗期が来て「俺はいつまでも窮屈なのは嫌だ!」とフェードアウトしかけた経験があったとのこと。それ以来夫婦で話し合い、寛容な家庭にしようと決めたとのこと。MさんやNさんは自由だからこそ家庭で過ごす時間が長いタイプだったが、Oさんは外向的で色々な場に顔を出すような友人関係を築いていた。女子でありながら友人と遊んだ先から21時くらいに塾に来て1時間自習していくようなことも多かった。それでいて勉強の面ではMさんやNさんよりもよくできていた上に、学級委員や部活動の主将などにも就いていた。

何と言うか幸福度が高い学年だった。ただそれをもって「叱らない育児」が大正解とは限らない。彼女らには「美意識」と「バランス感覚」があった。これらが根底にあったので「叱らない育児」がハマったのだと思う。例えば服はテキトー、教科書やテキストは机の横に山積み、プリントはグチャグチャ…こういうタイプの子(ほとんど男子だが)にはこの叱らない育児は逆効果になるだろう。彼女らはある程度早い時期から「みっともないことはしたくない」「ダサいことは嫌だ」という価値観を内面化していたのでご家庭の方針がハマったのだと思う。

ここに紹介しなかった3人の女子以外の子も含めて、彼氏がいる期間が長い子が多かった。これは「その2」で書いた生徒たちと属性が似ている。更に学校内のポジションも似た様子であっただろう。しかし相当プラトニックだった。微笑ましい中学生らしい交際をしていた。交際の中では悩むことや嫌なこともあっただろう。しかしその相談が私に向くのではなく、親御さんに向いていたように感じられる。2010年ごろの子たちは異性との交際を親にはクローズにしていたが、それが10年になってオープンになった。これはオープンにできる交際をしていたということでもある。

2019年は新たな悩みを何人からか聞いた年だった。「フォートナイト」である。私はこのゲームの詳細は結局分からない。実際にプレーしたことがないからだ。通信で友人たちとチームを組んで共通の敵を倒すゲームっぽいということだけは知っている。そしてこのゲームの件で当時小2~中1の本人もしくは親御さんから相談を受けた。

「深夜や早朝に協力バトルの誘いが来る」

「『うちは無理』と断ると『次からはもう仲間に入れない』と言われた」

「無課金でやっているので貢献できない。それで本人が泣いて『課金してほしい』と。可哀想になって課金アイテムを購入したが複雑な気持ち」

「経験値をためるために父親が金土の夜はほぼ徹夜でプレーして子どものサポートをしている。バカバカしいが、我が家でみんなで遊んでいる時になじられているのを見て旦那が自ら動き始めた」

当然、塾生本人や保護者は「被害者」の立場で私に相談してくる。しかし子ども会やその他のコミュニティで話を聞くと、うちの塾生が寧ろチームのリーダー格で他の子に「課金しろよボケ!」とか「朝4時にログインな!」と話している等も聞いて、複雑な気持ちになった。

これまではこういう人間関係の複雑さやトラブルは小4~小6の女子に見られるものだった。男子はもっと直接的でケンカは時々あるがこじれる様なケースは少なかったように思う。しかしこの「フォートナイト」の出現は小学男子をその渦に巻き込んでしまった。しかも質の悪いことに365日24時間、加えて家庭の経済力等も含めたトラブルに至ってしまう。相当質の悪いものであったように思う。

2019年にフォートナイトの件で私に相談があったのは4つのご家庭だった。その後4人のうち3人が半年~3年くらいの不登校を経験した(継続中もいる)のは偶然ではないだろう。ネット社会の怖さをひしひしと感じる経験であった。またその頃うちの長男が小2だったので警戒した。それから5年経ち結果としては彼の学年ではフォートナイト熱は高まらなかった。2学年上までは相当の児童が参加していたようだが、結局息子の口から「フォートナイト」の言葉が出てくることは無かった。

「ネット社会の怖さ」は、私自身も感じるようになっていた。「子どもに対してAという働きかけをするとAという部分が伸びる」というような言説がSNSでは評判がいい。「Bという働きかけはBの部分を阻害する」は更にバズる感覚があった。これは多くの子を見てきた経験から看過できない傾向だった。
”Aという取り組みをしてAという部分が伸びる子がまず多数派である。その取り組みが合う子は10Aの効果を示す。Aの要素にはあまり働きかけないのだけれどBやCの部分が伸びる子もいる。しかし残念ながら-Aや-Bになってしまう子もいる。Aが合わないのは成長のタイミングと合っていないからかもしれない。でもそもそもAは止めた方がいい子もやっぱりいる。”
子どもと接するとか学習指導をするとかはこの繰り返しである。しかしこのような発信は広がらない。ストンと悩みを解消してくれないし、ドラマティックではないからである。

もう1点「ネット社会の怖さ」を感じたのも2019年だった。確か初夏の頃に県内の小学生が遠足に出かけた。まだ低学年の遠足ということで近くの公園までを歩いて往復するような行事だった。その道中で一人の子が具合が悪くなりその後熱中症で亡くなってしまった。ネットの反応の過剰さと怒りは尋常では無かった。
「そもそもこの時期の遠足は無くすべきだ」
「なぜ熱中症であることを予見できなかったのか」
「もっと早い対応が必要だっただろう。教員は無能だ」

驚いた。長男が同じような遠足にその前日に出かけていたからである。
驚いた。次男の保育園もその日片道30分くらいの公園に出かけていた。
驚いた。翌週に長男の生活科の街探検の引率が控えていたからである。
驚いた。この遠足の日に私は15㎞ほどランニングをしていた。
結局、その後街探検は予定通り行われたし、その頃にあった長男のTボールの大会も普通に実施された。長男の友人のお母さんと遠足の事故の話題になった時も「まあ体調が悪かったんだろうね。不幸だったんだわ。でもこの子たちの行事が普通に行われてよかった」と話していた。普通はこのような反応になる。しかしネットはテキストベースで善悪二元論の極論が大好きな空間なので憎悪が渦巻く。そこで生まれる世論と学校や子どもたちの集団生活というのは、非常に相性が悪いものだ。
「このままだと安心・安全教に学校その他は潰されるかもな」と感じた。

そんな風潮の影響だろうか。当時初めて「自転車に乗れない生徒」が数人いた。一人は中学になったら練習するとのことだったが、残りの二人はその気がないので親も「まあいいか」と思っているとのこと。一人の子はそれで入りたい部活を諦めたとのことで、ちょっと理解に苦しむ判断だった。
「乗れたら便利ですけど、その分危険ですからね」
そんなものかなぁ。。と思い悩んだ。インスタでは大学の同級生の子がまだ3歳なのに補助輪なしで自転車に乗っていた。

話が色々な所に飛んだ。怒られずに育った女子を含む生徒たちが高校受験を迎える頃になった。しかし社会が大きく変わろうとしていた。そう「コロナ禍」の到来である。

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