【連作詩】灯火(ともしび)
〈連作詩一〉 ざわざわの形5
あの時
わたしが
この手で触れていたのは
確かな形をもつ存在でありながら
その影を抱きしめることはできなくて
あの時
わたしが
この胸に抱いていたのは
揺らぐ陽炎のような感情でありながら
確かな重みから逃れることはできなくて
形をもつものの
その証を
抱くことができない哀しみと
形のないものの
重さを
抱き続ける苦しみと
それらは混じり合い
わたしの中に沈んでいく
奥底に沈んだものたちに
今、わたしが浴びている
光は届くだろうか
葉面からこぼれる雫の
きらめきは届くだろうか
すべてが
変わりゆくのであれば
哀しみも
苦しみも
やがて
温もりと輝きを伴う
わたしの灯火となりゆくだろうか
ざわざわが生み出した言葉の欠片たちが、いつやら、5つの詩の断片となり、やがて、5つの詩がほぼ同時に形になりました。
何だか、五つ子を産み落とした気持ちになって。
同じ時間のなかで生み出した5つの詩と、「痛みの形」でのコメントを読む中で、この詩で向き合えていないものがあると感じて追加した、テーマと同じタイトルの詩を、「〈連作詩一〉 ざわざわの形」として、金曜日の夜、ひとつずつお届けします。
今夜は、5回目の金曜日です。五つ子の詩の最後です。
来週は、〈連作詩一〉の最後の詩をお送りします。