【詩】月の眼差し
そのむかし
空に貼り付いていた月を
少し爪をたてて剥がした
今、思うと
それはコンタクトレンズのような
質感で
つるりとなめらかな月は
わたしの指につままれて
風もないのに震えていた
しなやかに輝く金色の糸を放つ月が
理由もなく憎くなり
その眼差しを汚してしまいたくて
指で
その、のっぺりとした明るさを押し潰し
薄墨を一滴垂らす
もう一度
空に貼り直した月は
わたしの指の跡を残し
薄墨は
その跡に滲んだ
満月の夜
わたしは
あなたにした仕打ちを
思い起こす
わたしがぽたりと垂らした薄墨は
光り輝くスクリーンに
映し出される影となり
輝きは
もはや影の中から
放たれているかのよう
でも、あなたの
その透徹した眼差しはそのままで、
しなやかに輝く金色の糸からは
逃れ難く
わたしを捉えて
絡み付き
わたしの過去と未来
そして
今を、刺し貫き
わたしを象る