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神話と引用

神話が文学をはじめ、現在でも映画や音楽などあらゆるジャンルで引用され続けていることは以前のnoteでも書いていますが、その後も出会うきっかけが多くその根強さを感じています。というのも、最近西洋占星術にハマっていたのですが、これも神話の世界であったことを知ったからです。

西洋占星術の歴史

西洋占星術といえば、雑誌のコラムに掲載されているなど、一種のエンタメのようになっているのが今日の一般的な立ち位置であると思いますが、実際に調べていくと壮大な背景を持っていることがわかりました。
起源には様々な説があるようですが、紀元前2300年頃のメソポタミアには既にその原型があったそうです。占星術は暦と天文学の歴史と密接に関係しており、種まきや収穫のタイミングというのは農耕民族にとって当然重要で、それを探る為に天体から法則性を見出していったことで発展していきます。他にも、例えばエジプトでは、ナイル川の氾濫によって被害を受けていた現地の人々が、天体の動きから氾濫を起こすタイミングを発見しようとしたところから、それらが始まったといいます。後にギリシャ、ローマ、インド=ヨーロッパ、イスラムなど、ヨーロッパを中心とした世界史の流れとともに融合されていき、今日の西洋占星術へと近づいていきました。そして、物理学の発展とともに、元々は一体であった天文学と占星術が分離していくことになるのですが、他にも生物学や医学、哲学など、占星術が包括していたあらゆる学問も同時に分かれていきました。

西洋占星術がしていること

西洋占星術では、黄道に乗る12星座の特性と、主に太陽、月、水星、金星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星による、それぞれの公転と位置関係によって、個人の資質から未来、健康、世相などを見ていきます。
今日の我々にとってはどうしてそれでわかるの?と思ってしまうところですが、例えば月には引力があり、新月から満月までのサイクルの中で、海の満ち引きを作り出し、さらに植物の成長や、動物の繁殖、人の心身にも影響を与えていることは、今日の科学でも解明されています。それを知ると太陽の影響力についても、同様に色々と思い浮かぶものはあると思いますし、他の天体達も影響を我々に与えているということにも、もしかしたら納得が出来るかもしれません。
さらにこのことからも、西洋占星術が上述の通り、あらゆる学問を包括していたことについてもわかってくるのではないかと思います。
因みに、各天体の位置関係から生まれる角度をハーモニーとして、天体と音楽を関連させている学派もありました。う、美しい…。

絵画と神話

さて、各星座の名称は神話から由来していることは分かりやすいですが、文明の進歩とともに解明してきた各天体の特性から、太陽はアポロン、月はアルテミスというように、神々を当てはめていきました。つまり各星座だけでなく、各天体にも物語があるということです。これら物語から抽出されたキーワードを掛け合わせたものが、我々の人格であり運命であり世相ということになります。
であるとすると、今の自分がいるのも各神々の戯れに過ぎないのかと、我々も神話の中に引き込まれたかのような妄想を膨らませたくなります。しかし、そんな戯れの一瞬を映し出しているのが多くの西洋絵画だと思うのです。というのも、厳密には神話の有名なエピソードの一部を抽出したものではありますが、もし共感を覚えるものに出会えたとすれば、私達は一瞬でもその世界の中にいるとも言えるのではないでしょうか。

語り継がれてきた神話を実際に絵として画家たちが具象化させていくというのは、非常にプリミティブな動機で、さぞかし当時の人々もワクワクしたのだろうと想像できますよね。…と書いたものの、実際には多くが、時の権力者たちが自分たちの力や教養を誇示するために描かせたり、性的な欲望を叶えるために女神を描いているという名目でヌードを描かせていたりと、動機はなかなか人間臭いものでもあったようです。しかし、そのような人間臭さもまた、長い間私たちを魅了し続けている一因になっているのかもしれません。

レンブラント『ダナエ』

引用と芸術

また、西洋絵画の歴史も見ていくと改めて、優れた芸術作品であるかどうかを判断する基準の一つとして、”引用の巧みさ”というのがあると思いました。語り部を通して伝えられた話に、次の時代に合わせた解釈が混ざっていく。これを我々はずっと繰り返してきたと思うのです。そしてそのことが今日の映画、文学、音楽などでも、神話が引用され続けていることの説明にもなるような気がします。現に私は優れた作品に出会ったときに、どこか”懐かしさ”を感じます。皆様はどうでしょうか。

”新しさ”に翻弄されることを余儀なくされる我々の今の世界では、技術革新によってさらにその加速度を増し、同時に息苦しさも増しています。そんな中で”懐かしさ”は一時の甘い安息を与えますが、それすらもマーケット化され消費され続ける昨今。そんな中で"引用の面白さ"を味わうことは、より深い安息地に向かう一つの手段になるのかもしれないと、希望を抱いて今夜は眠ることにします。

グスタフ・クリムト『ダナエ』


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