あなたの正義。私の宝もの。
遅ればせながら、
あけましておめでとうございます。
年末から元旦にかけて読んだ本。
朝井リョウさんの「正欲」
ずっと読みたくて、でも何故か怖くて、図書館で借りることにした本。
あ。そうです。
わかりやすく朝井さんハマってます。
面白かった。本当に面白かった。
あっという間に読み終えてしまった。
もちろん、腹を抱えて笑った可笑しさではない。
一瞬で読み終えた本を一言で語るなら、「面白いよ」と言うしか言葉が見つからない私の陳腐さが憎い。
だって、「色々考えさせられるよ」って言ったって、読みたいと思う人はなんにんいるだろうか。
これを読み終えた後に、過去自分が多数に入れなくて人知れず傷ついたことを思い出し、同じように誰かを知らず知らずのうちに追い詰めたことが私にもあったろうと思った。
多様性。
たとえばバイキングの朝ごはんのメニュー。
みんなが白ごはんだからそれに流されながら選んだけど、迷わずコーンフレークをとる人が格好よく見えた。
そんな風に感じた、登場人物の中で八重子の気持ちに一番共感した。
以降は、Instagramにも投稿した文章。
物語を読んで浮かんだ言葉の羅列。
*
白を基調としたおしゃれなカフェで、昼間の眩しい光を浴びながらテラス、あなたのサラダプレートが先にきたセットのスープは私のと一緒にくるかな、食べてていいよ。大丈夫、大丈夫。あなたは手にしかけたフォークをおろして、視線を右に、指をさす。その方向には老人が犬を連れて歩いている。フワッフワのマルチーズ。耳に子ども用の髪留めか、プラスチックのピンクのリボン。わぁ、かわいい。言いかけると左から甲高い泣き声があがる。そっちには若い夫婦がいて、慌ててベビーカーから子どもを抱き上げる。小さな顔から大粒の涙が落ちて、木製のテーブルにシミをつくる。母の腕の中でも、まだ、周波数の高い音を奏でてる。元気だね、とあなたは目を細めてグラスに手をかける。水の中に、レモンの輪切りと、多分これはミントかな。浮いているのを避けて一口、カランっと氷が鳴る。私もそうしようとしたら、セットのスープがきた。白い湯気をあげて。あなたのミネストローネと、私のクラムチャウダー。なんて幸せな、休日。
ねぇ。
今、こんな穏やかな場面の中でさ、
私がひどく興奮している対象があるとしたら、
あなたはどう思う?
スープを飲むのに持ったスプーンが震えるのに、じっと耐える。
目がそちらに泳ぐのも、悟られないように。決して悟られないように。
ああ、頭の中を丸ごと見る能力が、人になくて良かった。
好きだけじゃ済まされないほど赤黒いこの想い。
あなたみたいなシワひとつないシャツを着るような人になんて知られたら、
あなたが私を糾弾しようが、受け入れようが、耐えられない。
だって人ってそうでしょう。
「自分とは違う。この人はこんなことに趣味嗜好があるんだ」
「他の人と違う。この人はマイノリティだ」
「理解してあげる」「そんな人もいる」
「多様性を認める時代」
はっ。
どうしたってマジョリティがマイノリティ認める立場。
多い者が、力の強い者が、いつだって世界を牛耳ってきた。
かわいそうの声もゴミを見る目も、優しい手もいらないの。
別に理解なんてされるつもり毛頭ないんだから。
私は私の世界を静かに守って生きていくから。
「ねぇ」
あなたが私に話しかける。
太陽が伏せたまつ毛に影をつくっている。
「苦手なんだ、本当は。犬も、子どもも」
口元を綻ばせたまま、あなたの口がそう動いた。
そこに運ばれるスープはもう湯気をあげていない。
もしも、
頭の中を丸ごと見る能力が人にないから、
想像力が生まれて、言葉が生まれたとしたら、
ずっと人は人を知りたいのかもしれない。
多数とか少数とかで収まらない、目の前の人の、心の輪郭を。
ねぇ、なぜ私たちは皆、
ひとつの体にひとつの物差ししか
持つことが許されないんだろうね
頭も、心も、バラバラなことを考えても思っても
私という人間でしかないことが時に歯痒い
ただ、この大したことない脳みそでも、
想像する力と言語は培ってきて
生まれてこの方何度か使っているから
教えて。
あなたを。あなたの正義を。
私も話すね。
私が握っている、まだ誰にも見せてない、
宝もののこと。
それぞれに生じる辛いことを、乗り越えるために。
自由を、守るために。
そうやって傷つきながらも慰め合って、
一緒にこの酷い世界を生きたい。
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