「DX人材登用」が失敗する理由
流行語の落とし穴
デジタルによる変革を表すDigital Transformation、略して「DX」はすっかり時代の寵児となった感があります。しかし、どの時代もそうであるように、言葉というものは口にする人が多くなっていくにつれて、定義や領域が次第に曖昧になってゆくものです。
いまや「EC」や「Eメール」に冠されているElectronicにとって替わられ、誰もが抵抗なく口にする「デジタル」ですが、「X」にあたる「トランスフォーメーション」については、あまり意識されないまま流布し、定着してしまっていないでしょうか。
Transformationが「X」と縮めて表現されたこととも相まって、わかりやすい「デジタル」の方が強く刷り込まれ、いつしか「デジタル」も「DX」も似たような意味で使われ始めているように思えます。
職務があいまいなまま進む組織づくりと人選
「デジタル」の指すところはシステムやIT、ソフトウェアやプログラムなどのスキルや領域ですが、「トランスフォーメーション」とは「変革」であり、極めて強い言葉です。たとえば歴史上、変革を起こした人物と言えば、織田信長や坂本龍馬あたりを想像しますが、したがって「DX人材」とは「デジタルを駆使して変革を起こすことができる現代の信長や龍馬のような人」ということになります。
これを読んでいるほとんどの人が、きっとこう思うことでしょう。
そんな逸材が簡単に見つかるわけがない。
いたとしても、そんな逸材がウチに来てくれはずがない。
欲しいのはそんな大それた豪傑ではなくて、ある程度のデジタルスキルが備わっていれば、それでいいのだ。
人材登用がうまくいくかどうかは、その人に期待される職務がいかに正確に提示されているかどうかにかかっています。「デジタル」というのはあくまでもスキルでしかなく、そのスキルを用いて、何を成し遂げて欲しいのかは、登用する側がしっかりと定義しておく必要があります。「そんな大それた豪傑」が必要とされていないのであれば、どのような人材が必要とされているのでしょう?
この点を曖昧にしていると評価基準もあいまいになります。その結果「ソフトウェアのセールスでトップの成果を挙げた人」「システム開発に携わったことがある人」といった過去の実績や経歴にばかり目が行くことになり、未来に必要なコンピテンシーを備えていない人材が登用されることになってしまいます。
「組織に対する理解力」というコンピテンシー
私たちキャリパーは40種以上のコンピテンシーを類型化した「コンピテンシー・ライブラリー」を構築していますが、その中に「組織に対する理解力」というものがあります。
このコンピテンシーは、組織における公式・非公式のコミュ ニケーション経路や力関係に関する 情報を集め、正しく見極める能力です。
組織の構成員全員が変革に協力的で理解があれば、もはや「変革者」は必要ありません。トランスフォーメーション(変革)がなぜ難しいのかと言えば、変革を必要とする組織には必ず反対勢力や慣習・風土・伝統といった阻害要因が厳然と存在し、並みの胆力ではこれを乗り切れないからです。
「組織に対する理解力」を備えている人には、
意思決定者を見極める
人事に関して情報を集める
会社に関して精通する
影響力のある人脈を活用する
あらゆるレベルに働きかける
といった能力があり、組織の中でスマートに立ち回ることができます。
日常的な接触や面談だけからでは、こうしたコンピテンシーを見出すのはとても難しいことですが、キャリパープロファイルを用いれば、正確かつ迅速に「組織に対する理解力」を持つ人材を特定することができます。
もちろん、特定が可能ということと、容易に見つかるということは必ずしも同義ではありません。厳密な意味でのDX人材は1,000人に1人いるかいないかの逸材です。したがって、変革という難事を一人の人材で乗り切ろうと考えるのではなく、複数のコンピテンシーを組み合わせて、チーム化するという発想も有効です。但し、複数の人材が集結する以上は、それを束ねて仕切る人材も必要になる訳なので、人材登用の道が依然として険しいものであることに変わりはないのですが。