職場にこそ必要な「マッチング」の発想#1
最近では「マッチング」と言えば、「マッチング・アプリ」=「出会い系」という連想が働きがちですが、ビジネスでもベンダーや人材のマッチングという考え方は随分昔からあります。
特に組織で働く者にとって長い時間を共有する「上司と部下」の関係は重要です。人間関係が原因で精神を病んでしまったり、退職してしまったりするケースは枚挙に暇がありません。
「何となくそりが合わない」「相性が悪い」といった、職場のモヤモヤはほとんどの場合数理的・統計的に解明できることが多いのですが、何回かに分けて、いくつかの例をご紹介しましょう。
「肉食系上司」vs「草食系部下」
まず最初は、ある飲料メーカー企画部の上司と部下のケースです。
このキャリパープロファイルを見れば一目瞭然、二人の「潜在行動力」が正反対に分かれていることに気がつきます。
上司は主張欲、エゴ・ストレングス(復元性)、切迫性、新奇・リスク志向のいずれもが高く、逆にエンパシー(感応力)や慎重性、感謝欲が低いという典型的な「肉食系」です。有名スポーツ選手を相次いで起用したTVコマーシャルで頭角を現し、ライバルから果敢にシェアを奪い取ってくるバリバリのやり手企画マンです。目覚ましい成果を上げているので経営上層部からの信頼も厚く、本人も自信満々、さらに高い地位を目指して野心を燃やしています。
一方の部下は入社三年目。エンパシー(感応力)、慎重性、感謝欲、徹底性が極めて高く、エゴ・ドライブ(影響欲)や新奇・リスク志向、切迫性の低い「草食系」の若手です。
お互いに共通する指標はほとんど見当たりません。この「肉食系上司」と「草食系部下」が一緒に仕事をするとどうなるでしょうか。
最初は良くても、次第に関係が悪化するパターン
最初は細かいことによく気がつき、言われたことを忠実にこなし、まめに動くこの部下を、肉食系上司は重宝に感じますが、やがて仕事が遅く、態度が煮え切らず、言われたことしかしようとしないことにいら立ちを募らせるようになります。「何でこんな簡単なことができないんだ!」とか、「早く資料を用意しろ!会議に間に合わなくなるぞ!」とプレッシャーをかけ続けます。
反対に経験の浅い草食系部下からすると、肉食系上司が率先して仕事をこなし、リスクのありそうな案件にも果敢に挑む姿を、最初のうちは頼もしく感じるのですが、次第に重要なことを伝えてくれず、自分勝手に仕事を進め、やってあげたことに「ありがとう」の一言もないこの上司に腹立たしさを感じ始めます。
お互いに不満を募らせながら仕事をしていると、相手への不快感が増し、徐々にコミュニケーションを取ろうとしなくなります。表面的には取り繕っていても、お互いに腹のなかで怒りを募らせていては、徐々に仕事にならなくなります。人間関係で行き詰まったときは「相手を変える」か「自分を変える」か、それとも「環境を変える」かの三つしか選択肢はありません。この場合「環境を変える」ことは、どちらかを配置転換するか、部下が辞めることを意味します。これは最悪の結末です。
「わかる」ことは「変わる」ことほど難しくない
最善の方法は「お互いに変わる」ことですが、そのためには、お互いにどう変わればよいかを知ることが必要です。私たちはこの二人に、お互いのキャリパープロファイルを公開し合うことを勧めました。そうすることで相手が「肉食系上司」であり「草食系部下」であることを理解し合うことができるからです。
理解し合えば、相手への感じ方が変わり、態度が変わってきます。上司は部下の働きに「ありがとう」と言うようになり、部下は上司の指示の意図するところを「汲み取ろう」とするようになります。
この二人も、お互いのプロファイルを確認して「なるほど、そういうことだったのか」と理解し、お互いの足りないところを補い合いながら仕事を進められるようになりました。このケースでは、キャリパープロファイルでその傾向をはっきり掴めたことにより、問題が深刻化する前に解決することができたのですが、そうでなかったら恐らく抜き差しならない関係にまで陥っていたことでしょう。
人のパーソナリティは変えようがありませんが、態度は変えることができます。たとえ人と人とのミスマッチがあっても、相手のパーソナリティを理解することでどのように対応したらよいかがわかり、対策を講じることが可能になるのです。
日常のやり取りのなかでお互いに何となく「そういう性格だ」とか、「ああいうタイプなんだ」ということは感じていても、強み弱みも含めたその人全体のパーソナリティを掴むことまではなかなかできません。だからと言って人間関係に困難を感じたときは「環境を変えるしかない」と思い詰めるのではなく、必ず解決策はあるはずだと、前向きに考えることが大切です。古典的な解決策から脱するには、お互いの「潜在行動力」を理解し合うことが役立ちます。この方法によってコミュニケーション・ストレスを大きく減らすことができるのです。