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「優れたマネージャー=優れたリーダー」という誤解

「何ができますか?」「部長ができます」

とある大企業で、リストラの憂き目に遭った部長さんが、再就職先の面接で「どういう仕事ができますか?」と問われ、「部長ができます」と答えて失笑をかったというエピソードがあります。結構な割合の人が「『部長ができる』なんて、どうかしてる」という印象を持つかもしれませんが、これは決して笑い話ではなく、いろいろと示唆に富む話なのです。

名刺の裏に英語で肩書が書いてあるような企業では、部長職にはたいていManagerという訳語が充てられていることが多いと思います。間違ってもBuchoと書いてあることはありません。一方、私たちが日常会話で「マネージャー」と言って思い出すのは、「野球部のマネージャー」「タレントさんのマネージャー」「(ホテルやデパートなどの)フロアマネージャー」といったものです。もし、このリストラされた部長さんが「マネージャーができます」と言ったとしたら、怪訝な顔をされることはあったかもしれませんが、失笑をかうことはなかったかもしれません。

「部長職」すなわちマネージャーはその内実を知らない者からすると「地位」の名称のように聞こえますが、立派な「職能」でもあります。会社の立てた計画を忠実に実行し、それを達成する自己統制力はもちろんのこと、仕事を円滑に進めるためにシステム思考ができることや、細かいことにまで配慮できる注意力、部下を育て、仕事ぶりを管理する管理能力など、さまざまな適性が求められますから、誰にでもできるという仕事ではもちろんありません。

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マネージャーの適性にはない「リーダーの適性」

一方、「リーダー」と言った時の定義は非常にあいまいです。持たれているイメージも人によってバラバラですが、実は「成功するリーダー像」については、キャリパープロファイルによって、きわめて具体的かつ明確な定義付けができています。

リーダーには自ら会社のビジョンを創り、クライアントや投資家に事業アイデアを披歴し、戦略的な交渉をまとめ上げたりする能力が必要になります。そのためにはインナーを粘り強く説得する熱意や胆力、時には配下にチャレンジさせる懐の深さ、そして何よりもコミュニケーション能力の高さがとても重要です。他人の真似を嫌う独創性、慣習や実績に囚われない柔軟性、同時に複数の仕事に取り組める多様な思考能力も欠かすことができません。

このように「マネージャー」と「リーダー」ではそれぞれに役割と資質があり、その能力が活かせる場もおのずと異なっています。マネージャーの仕事を極めたからと言って、必ずしも優れたリーダーになれる訳ではないのです。

しかし実際には多くの会社がマネージャーとして優秀な社員を経営幹部に登用する傾向があります。マネージャー適性がそれほど高くないばかりに、リーダーとしての優秀な潜在能力を持ちながら、組織の中で逸材が埋もれてしまうケースも少なくありません。キャリパープロファイルのデータからも、優秀なリーダーには「慎重さに欠ける」「我慢が苦手」「整理整頓が下手」という共通の傾向が見て取れるので、企業の中で、リーダーの原石が発掘されにくいのはそんなところにも理由があるのかもしれません。

しかし、今や優れたリーダーシップを備えた人材は、経営幹部クラスだけでなく、さまざまな業務の最前線でも必要とされています。事業のスピードが問われている時代には、いつ下りてくるともわからない上からの決裁をただ漫然と待っていたのでは、とても競争に打ち勝つことなどできません。スタッフレベルでも、自分から決済を獲得しにいく説得力と自己主張の強さが必要になっているのです。

特に新規事業の立ち上げや、赤字部門の立て直しなど、過去のしがらみや慣習に縛られないことがむしろ望ましいような仕事は、マネージャー適性の高い人よりも、リーダー適性の高い人に任せた方がよいと考える企業も増え始めています。

リーダー育成の難しさ

ただ、そうやってリーダー適性の高い人を外部から採用したり、社内から抜擢したりすれば、たちどころに能力を発揮するのかと言えば、残念ながらそのままではうまく行かないことがほとんどです。

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その最大の理由が、本人にリーダーの資質があるという自覚がないということです。キャリパープロファイルから、リーダーとしての潜在能力の高さが一目瞭然という人には、まず本人にそのことに気付いてもらう必要があります(リーダー適性が低くても、本人は「リーダー適性が高い」と思い込んでいることももちろんありますが、ここでは置いておきます)。

そしてまた、私たちキャリパーは雇用主に対して、その人のリーダー適性が高いことを伝え、組織の中でその能力が摘み取られてしまう前に、リーダーとしての経験を積ませることを提案します。厳しい環境の中で実践を積み重ねながら、自分を律するための研鑽を積ませることによって初めて、真のリーダーとして育ってゆくのです。体格やセンスに恵まれたスポーツ選手が、実戦やトレーニングを通じてその能力を開花させてゆくのと似ています。

企業はリーダーによって成長し、リーダーによって滅びる

成功するリーダーとは、自分の強みと弱みをよく自覚し、強みを大きく伸ばせる人のことです。そのためには本人の努力ばかりでなく、企業側にも「意図的にリーダーを育てる」システム、場合によっては寛容さが必要になります。これまでと変わらず、感覚的・機械的にリーダーを選抜し続ければ、同じような成功体験だけが積み重なり、いつしか組織は回復不可能なまでに硬直化してしまいます。社内の上下関係や商習慣に囚われる人たちで上層部が占められると、新しい提携先や投資案件のチャンスが訪れても、大胆にリスクを取るという判断ができなくなってしまうかもしれません。

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今後ますます熾烈を極める競争の中で、規模の大小を問わず、企業は新しい基準で人材を評価してゆく必要に迫られています。優れたリーダーシップを備えた人材を発掘・配置し、かつ育成してゆくことこそが、企業の成長に必要な新たな第一歩となるのではないでしょうか。