【小説】私と推しと彼と解釈違い③
「はじめまして~! もいかフェアリーです!」
彼が連れて行ってくれたお店は、私がよく行ってた“メイドカフェ”とは全然違う世界だった。
「お嬢様の冒険者様ってあんまりいないから、嬉しいです~。ひゃ~、なんか綺麗なお嬢様で緊張しちゃう」
「彼女、普段から1人でメイドカフェとかガンガン行ってるから、全然大丈夫だよ」
「うわ、出た“俺のカノジョ”マウント! うちリア充禁止なんで、罰ドリンクいただきますね!!」
「そんなんなくても出すから、どうぞ飲んで。今日は彼女にここの楽しさ伝えたいから、そんな感じでよろしくね」
「はぁ~い♥」
カウンターだけの細長い店内と、足元がぶらぶらしちゃう落ち着かない高い椅子。フードとソフトドリンク全部合わせても、お酒のメニュー表のページ数にかなわないのも…見たことがない。ピンクの壁に、ピンク、グリーン、水色…テーマパークの制服みたいにかわいいカラフルなメイド服は胸元がちょっと開いてて、カウンターを挟むだけの距離の近さだと…ドキドキっていうか、私の知ってるイメージの“メイドさん”とは違うんだ、って把握するまでちょっと時間がかかってしまった。
「彼氏さんとはどこで知り合ったんですか?」「メイドさんのお店よく行くんですよね?おすすめってどこですか~?」「うちは“コンカフェ”って感じで、メイドカフェとはまた違うんですよ」「でもいいな~一緒にヲタ活できる彼氏って、理解もあるし最高ですよね!」
最初はちょっとドキッとしたけど、女の子は普通に優しくて、ニコニコいっぱい話しかけてくれて。ところどころ、ローカルルールの違いを感じるところもあったけど、それはそれって理解できなくはない感じ。
「今日は俺がおごるから!」って調子よすぎる彼にちょっと不安だったけど…でも、可愛い子たちにいっぱい話を聞いてもらって、褒めてもらって。
帰り道、知らない場所で、人といっぱい喋ったあとの高揚感で、なんかふわふわした余韻を味わいながら、手をつないで歩いた。
「た、楽しかった…でもちょっと、飲みすぎちゃったかも…」
「だろーー、楽しいよね~~。女の子達も結構飲んでるのに、なんかちゃんとしててすげーよな。しかもあんな喋ってくれるとか、物販だったら今頃ATM走ってるわー、コスパ良すぎ」
彼が受け取っていた宿題チェキには、裏側まで落書きがびっしりで。「コスパ」の言葉にそのことをふと思い出した。
「コスパ…かぁ」
「ほらあとさ、オムライスとか何気レベル高くないか? キッチン専門のスタッフがちゃんといるんだってよ」
「確かにおいしかったね~、ふふ、でも落書きは微妙だったけど」
「いやいや、わかってないな~。あの微妙な感じがあるから、その後上手くなってたら感動するんじゃん! あの子の落書きを育てたのは俺だから、って言うね」
「うわ古参アピうざっ」
「うるせっ、ドルヲタの血が騒ぐんだよ」
バカみたいなこといって、つっこんで、ふざけて。くだらない話ほど、私達に似合ってる気がしてた。だから、小さな違和感はちょっとしたやきもち。そのうち、気にならなくなるって思ってた。