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精神科 救急急性期病棟への入院 #7
※前回はこちらです
目の前をふさぐのはだれ?
入院から3週間が経過。朝は6時前に目が覚め、朝ご飯を食べたら少し本を読み、疲れたら横になって。午後はお昼ご飯を食べ、また本を少し読んで、疲れたら横になって。要するに食べては寝ての繰り返し。
スマホに日々の出来事を記録するのもなんだか楽しいと思えるようになってきて、先生から許可をもらってノートと筆記用具を持ち込もうかなとも思った。
自分では1ヶ月ぐらいで退院できるんだと勝手に思ってたけど、3週間を過ぎても先生からそんな話は一切無し。
それでも、退院に向けて体力を付けようと思って、部屋の中を歩いてみたり、時には廊下を何往復かしてみたり。でも、少し歩くとすぐに疲れてしまってもうぐったり。少し横になって、また廊下を少し歩いてみて、またすぐにダメで、また部屋に戻ってぐったりして。の繰り返し。
まだちょっと運動すのは早いのかなと思って本を読む。
子供の頃から本を読むことが大好きで、いつものペースで読んでしまうとあっという間に読み終わってしまうと思って。だから、この頃はあえて1日に読むページ数を決めて読んでました。
でも、前の日に読んだ話の内容を覚えていなかったり、5分ぐらい読むと内容が頭に入ってこなくなる。頑張っても毎日3ページ読むのがやっと。ひとり静かな部屋で読んでいるのに、集中力が10分も続かない。
体調はそれなりに悪くはないし、ごはんも美味しく感じてきて、それなりの量を食べられるようになって。
でも、何かがおかしい。すぐに動けなくなっちゃうし、本もまともに読めない。こんなことは生まれて初めてで、すごくショックだった。
あいかわらず腕は上がらないし、首が痛くて上を向くことができない。
後遺症が残ってるのかな…
退院できても、こんな状態だったらどうしよう…
ひとりで生活するなんて無理かも…
どこで暮らせばいいんだろう…
どうしよう…
どうしよう…
急にネガティブな思考がやってくる。目の前を誰かに塞がれたようで、目の前が真っ暗になっていく。部屋で首をくくった時のあの感覚と同じ。
私はフラフラと部屋を出てナースステーションに向かい、看護師さんに泣きついてしまった。
「焦らなくていいよ。ここまで回復できたんだもん。大丈夫。先生には伝えておくから。ゆっくり休んでね。」
看護師さんの言葉に救われる。
看護師さんは私が落ち着くまでずっと傍にいてくれた。
そうだ、ここは病院なんだ
またこうなったら言えばいいんだ
ここには助けてくれる人がいる
少し落ち着いて部屋に戻った。
その日の午後、部屋に主治医の先生がやってきて、
「一時的なものだと思うから心配しなくても大丈夫ですよ。何か困ったことがあったらいつでも言って下さい。焦らずに少しずつ前に進んでいきましょう」
先生にもそう言われてまた少し安心する。
体調が上向いたと思ったら次の日は急降下。すこし良くなって安心していたら、次の日になると突然急降下。乱気流の中を飛んでいる飛行機みたいに、心も体もぐらぐらしてる。
こんな調子じゃ、まだ退院は無理かなと思った。
難易度としては「アイガー北壁」への登頂ぐらい
それから数日が過ぎ。気分はやや落ち着き、部屋からはほとんど出ることのない私ですが、それでも自分なりに入院生活を満喫し始めていました。
看護師さんは、部屋からちっとも出てこない私のことを心配してくれていましたが、部屋には大きな窓があって、いつでも外の景色を見ることができる。それだけで気分的にぜんぜん違うのです。本も少しづつだけど読めるようなって、自分が回復しているという実感も湧いてきました。
こういうのって、ある日突然に良くなるんじゃないんだな。多少の障害は残ってしまうかもしれないけど、この調子ならなんとかなるかもしれない。そう思い始めてました。
トイレは部屋にあるし、洗顔や歯磨きは、病棟の奥にある多目的トイレを使っていたので、ホールにある洗面台を使う必要もありません。
自由って最高。
でもひとつだけ、どうしても部屋から出なければならない時があります。
それは 洗濯 の時。
コインランドリーの場所がホールの奥にあるため、洗濯をする時は必ずホールを通らなければなりません。しかも、洗濯で1往復→乾燥で1往復→最後に乾いた洗濯物を取りにもう一往復で計6回。洗濯物が多い時なんかはまだ生乾きだったりして、更にもう一往復することも。あまり長く歩くのもしんどい状態なので、1回の洗濯だけでヘトヘトになる。歩くと言っても数十メートルの距離を往復するだけなのに。
運悪く、2台しかない洗濯機が使用中だったりするともう最悪。例えるなら、登山を目の前にして急に天候が怪しくなり、急遽ベースキャンプに戻るようなもんです。
ランドリーが使える日は男性と女性で曜日が違っていて、確か週に2回とかしかなくて、運悪く洗濯機が使用中だったり、自分の体調が悪かったりして洗濯を断念することも多く、そうなると洗濯物がどんどん溜まっていく。
病院に頼めば有料で洗濯してくれるサービスがあったけど、1週間分の洗濯を頼んだら1,000円以上はかかる。自分でやれば400円ぐらい。洗濯するのは好きだし、なるべくなら節約したい。だからいつもギリギリまで粘ってから意を決して部屋を出て洗濯をしていました。
ソクラテスさんの言っていることは正しいと思った
初めての洗濯の時は緊張の連続で、正直なところあまり覚えていません。確か看護師さんが使い方を教えてくれたような、そうでないような…。
洗濯は街中にあるコインランドリーと一緒。洗濯は100円。乾燥は30分で100円だったと思います。支払いはプリペイド形式で、カードに自分のお金をチャージしておいて、利用の度にカードから料金が引き落とされる。そんな仕組みです。カードと洗剤はナースステーション預かりなので、使うときにその都度看護師さんに申し出て渡されます。
それでも3回目ぐらいからは徐々に慣れてきて、歩きながらホールをちょっとだけ見る余裕も出てくる。意外だったのは、一人で座って本を読んでいる方や、一人でテレビを見ている方が多かったこと。そして、私のことを気にしている人なんて一人もいなかったという事実でした。
私はてっきり、病棟のホール=患者さん同士がみんなで仲良くおしゃべりをしている場所 って勝手にそう思い込んでいたのだけど、実際はそんな雰囲気はぜんぜんなかった。
え?、思ってたのとぜんぜん違う…
目の前にあった大きな壁はアイガーみたいな垂直の高い壁ではなく、公園にある山形遊具程度の低い低いものでした。
毎回、重装備で洗濯に挑んでいた私はいったいなんだったんだろう…
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回へ続きます。