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カイテク創業ストーリー#03 ついにサービス誕生!出だしは好調だったけれど?

2019年12月にリリースしたワークシェアアプリ「カイテク」(当初名称は「カイスケ」)。創業者で代表取締役社長の武藤高史は、サービスをつくり上げるために自ら多数の介護現場に足を運んだり、介護事業所の人材採用を手掛けたりと、さまざまな経験を積みました。その中から、介護業界にITを駆使したワークシェアを導入するというアイデアが生まれたのです。今回は、サービスのローンチから軌道に乗るまでの紆余曲折を振り返ります。

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介護事業所からは厳しい意見も、リリース後の反響は上々

ーー「カイテク」リリースにあたっての自信のほどはいかがでしたか?

武藤 正直、100%の自信があったとはいえません。事前に介護事業所にヒアリングしたところ、9割ぐらいが「面接も抜きでいきなり働きに来てもらうなんて考えられない。万が一、利用者さんにケガでもさせたらどうしてくれるんですか」という反応でした。厳しい人には「介護の仕事をナメているんですか」とまで言われました。

働く人の側も「自分の都合に合わせて働けたらいいよね」という好意的な反応がある一方で「施設の誰にも会ったことのない、初めての施設に行くのはちょっと不安」という意見も少なくありませんでした。

しかし、実際にリリースしてみたら、すぐに有資格者が次々に登録してくれたんです。大々的に広告を打ったわけでもないのに、SNSや口コミを通じてサービスを見つけてくれました。その中には、介護福祉士の資格を持つ方もたくさんいました。介護事業所にとっては、介護福祉士は「喉から手が出るほど欲しい人材」ですが、求職者数は少なく、たまに現れるとエージェント同士で奪い合うような状況でした。そんな介護福祉士の有資格者が「スキマ時間なら働きたい」と、大勢手を挙げてくれた。これならきっと、介護事業所にも喜んでもらえると思いました。リリースの初月から、ちらほらと採用してくださる事業所が現れ、「これならいける」と思ったんです。


経産省コンテストでグランプリ獲得。しかしほどなくコロナ禍へ

ーー紆余曲折はあったものの、起業を決意してから会社設立を経てサービス開始までおよそ2年というのは、かなりのスピードといえるのではないでしょうか。

武藤 プロダクトの開発期間は5〜6ヶ月で、機能満載のわりにはスピーディだったと思います。リリース後には手応えもあって、事業の方向性に自信が持てました。それが2019年の末のことです。2020年1月には、経済産業省が主催する「ジャパンヘルスケアコンテスト」のアイデア部門でグランプリを勝ち取ることもできました。

経産省ジャパンヘルスケアコンテストのアイディア部門でグランプリ受賞

しかし、その直後、新型コロナウイルスの国内初感染が確認されたのです。

最初は深刻に捉えていなかったのですが、3月に入った頃から、だんだん雲行きが怪しくなってきました。「カイテク」のサービスはワークシェアですから、働き手の流動性を高めるモデルです。それなのに、人と人が接することが忌避されるような、真逆の社会情勢になり始めたのです。介護事業所に至っては、家族すら立ち入ることができなくなってしまいました。

リリース直後は意気揚々だったのに、あっという間に天国から地獄にたたき落とされたような気分でした。社内からも、事業停止をして、ピボット(事業転換)を考えるべきではないか、という意見が出たほどです。社内の士気はとても下がっていました。ヒト・コト・カネでいう点が全てどんどんマイナスになっていくのを感じていました。お客様に営業は一切できない、お金はどんどん無くなっていく、社内の士気はどんどん落ちていく。今振り返っても、起業から一番のHARD THINGSだったかな…と思います。(そのお陰さまで鍛えていただきました笑。)

ーーそれでも耐えようと考えた理由は?

武藤 長い目で見れば、「カイテク」のサービスは必ず将来の社会課題解決に資する事業だという確信があったからです。高齢化社会の進行は自明なわけですし、介護・医療の人材不足が深刻化することは分かりきっています。加えて、それまでのリサーチから、介護事業所も介護に従事されている方々も、既存の採用・就業手段に満足できていないことは明らかでした。

ひとつだけ幸運だったのは、コロナが拡大するギリギリの直前に、初めての資金調達に成功したことです。のちに投資家から「あと1週間遅かったら、出資は決めていなかったよ」と言われたものでした。あの時に爆速で進めてくださった投資家の方々には感謝しかございません。首の皮一枚で生き延びました。この資金があったから、自らのサービスを信じて進む決意を固めることができたのです。

「コロナ禍はプロダクト改善期間」と腹を括る

ーーコロナ禍が始まった頃は、世界中の誰もが先が読めない状況でした。

武藤 立ち上げたサービスを前進させると決意したものの、いつになれば状況が改善するのか、五里霧中でしたね。それでもメンバーのお給料だけは絶対に払い続けたかったので、経費を極力削減し、自分の役員報酬の支払いも止めたり、オフィス家賃の延滞交渉をしたり、融資をお願いしたりして、当面は売り上げが立たなくてもやっていける体制を整えました。本当にギリで首の皮一枚で繋がっている状態でした。

そうこうするうちに緊急事態宣言が出て、われわれが営業に行けないだけでなく、介護業界でも、デイサービスに利用者さんが通えないような事態に発展していきました。その中でも今できることに集中しようと、メンバーとはこの頃は「しばらくはプロダクトの修正や改善に全精力を捧げよう」とリソースを集中投下していました。

ただ、2020年も秋口に入った頃から、状況が少しずつ変わってきました。介護に従事されている方々がどんなに注意していても、やはり感染するときはあります。そうなるとしばらく仕事に行けませんから、介護事業所では短期的に人手が足りなくなる。ではどうしようか、となって、ワークシェアが受け入れられやすい土壌がつくられていったんです。

リリースして初めて分かったメリットや改善点も

ーーリリースからコロナ禍を経て、サービスはどんなふうに磨かれていったのでしょう?

武藤 介護・医療に従事されている方々(私たちはワーカー様と呼んでいます)のためには、例えば入金までの待ち時間を短くするといった改善も重ねています。今では5分に短縮しました。また、働けば働くほどポイントがたまって、ギフト券に交換できる制度も導入しました。さらに登録事業所がどんどん増えて選択肢が増えていることも、大きなメリットになっています。(ここで紹介したのは、お伝えできるごく一部の例で他にも多くのPDCAの賜物がございます。)

また、リリースしてみて分かった価値もありました。その1つは「いろんな職場で経験を積める」ことが、ワーカー様にとても喜ばれることでした。一口に介護職といっても、デイサービスと有料老人ホームでは仕事が異なりますし、職場の規模も大小様々です。いろんな職場、いろんな仕事を経験することが、キャリアアップにつながり、自分に合った仕事を見付ける格好の手段にもなります。

もう1つ、「カイテク」には「評価」の仕組みがあります。仕事をしたあと、事業所からフィードバックが受けられるようになっているんです。これもワーカー様にとって大きなやりがいになっています。

ーー評価を受けることが喜ばれるんですか?

武藤 例えば認知症の利用者さんなどは、その方のためを思ってしたことでも、記憶の違いからいきなり怒り出してしまわれたりということもあり、実は介護は、利用者さんから「ありがとう」と言ってもらえないシーンも意外と多い仕事なのです。

そのため、「カイテク」では、介護事業所側のインターフェースに、ワーカー様にサンクスメールを送りやすい仕掛けを組み込んでいます。ワーカー様にやりがいを実感していただければ、介護業界からの人材流出を防ぐ一助になるのではないでしょうか。

また、ワーカー様から事業所への意見も伝わるようにしています。一般に、介護現場は外部の目が入りにくいので、事業所や業界の透明化につながればいいと考えています。

ーー介護事業所のためのサービス修正や改善もありましたか?

武藤 リリース当初は介護事業所に「専門職に単発・短期で来てもらえますよ」とアピールしたんですが、反応は芳しくありませんでした。単発だと、その都度、事業所内の配置から仕事の内容まで説明しなくてはなりませんから、事業所にとっては手間が増えるわけです。

そこで、単発・短期の便利さはそのままに、繰り返し利用しやすい仕組みも取り入れました。こうした改善を通じて、助け合いのネットワークといえる、本来のワークシェアの形が少しずつ実現してきたと感じています。

ーー2022年からは介護職に加えて看護職もサービスの対象にしています。今後は職種も広げていくのでしょうか?

武藤 2022年に看護職の「カイテク(旧称「ナースケ」)」を立ち上げました。
介護は医療と密接に関わる仕事です。さまざまな専門職がチームを組んで、1人の利用者さんを支えるのが理想です。今後は医師や薬剤師などにもネットワークを広げ、サービスの質を高めていきたいと考えています。

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