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異邦人の居場所

『超美形の俺が別世界ではモブ顔です』読了。

タイトルがテーマを語ってるんだが、それだけでは想像し得なかった、深い人間洞察がある作品。この本の感想を一言でいうと、「びっくり」。さらに言うと、「なるほど」。もうほんと、おもしろかった!

タイトルにやられた

BL作品の中でも小説、とりわけお仕事BLが大好きなわたくし。BL小説を選ぶ時は必ずカバーにあるあらすじをチェックして、「現実世界」「お仕事」「ひねりがある」という基準で購入を判断している。
今回の『超美形の〜』は、「現実世界」という私の絶対基準に反する設定である。それでも選んだのはタイトルにやられたから。

逆はわかるじゃないですか。目立たない私がみんなの憧れのイケメンと?!みたいな流れ。平成初期のコバルト文庫によく見られた気がするし、私も大好きで読んでたし、なんならそういう作品を書いてる作家さんがそういう作品のあとがきに「この作品はお決まりのパターンで書いてます」って言い切ってた。懐かしいな。

定番メニューがおいしいのはわかった。次はもっと違うメニューにめぐり逢いたい。もっと違う「おいしい」がほしい。

そこへきて、この作品、「美しい顔の自分がモブ顔とされる異世界でどうするんだ」っていう設定。ひねりが効いてるというか、粋だなって思って即購入した。

近年流行りの長いタイトル、「モブ顔」という単語使い、「別世界」という設定。どれも私が選んでこなかった要素である。私、ファンタジーが本当に読めなくて。異世界とかってタイトルについてる作品は、おもしろいくらい頭に入ってきてくれないんである。
そんな私の脳内で鮮やかにこの作品の世界観が展開され得たのは、ひとえに、主人公・直央と上司・飯田の関係性が、ごく自然にステップアップしていくストーリーだったからだと思う。なんていうか、日常というか、普通の社会人としての生活と地続きで恋心が育まれていったというか。

あなたが好きだから、あなたの顔も好きになった

テーマが外見のことに触れているから、おのずと主人公たちも顔のことをよく話題にしている。その中で、この見出しのくだりがでてくるわけだが、いやこれほんと、真実よなって思う。
好きになった人が好みのタイプです、っていうやつなのか……ちょっとちがうかな?
好きになった人の顔をよく見てみたら、残念だなって思ってたはずのところもなんだか愛しいっていう感覚。

話はちょっとずれる。
攻が受のことを好きな瞬間って、描くの難しいと思う。読み手って大概女性で、読み手が自身を投影しやすい(感情移入しやすい)のって受の方だと思うから、受からの気持ちが大きい描き方を求められているのかもしれない。ただ、人間どうしでお互いに好きだと思い合うのって、男女も攻受も関係ないはず。だとすると、受の気持ちばかりを描写しても説得力がないと私は感じている。攻が受に執着するパターンはBLによくあるけど、それはまた語られる次元が違うというか。そうじゃなくてさ。
なんで攻は受が好きなんだよ。私は長年BLを読んできて、いつもそう思っている。

そこへきて、この作品はしっかり「攻が受を好きだと思う瞬間」を描いている。詳細はネタバレ回避のため書かないでおく。
「人は中身が大事」っていうわかりきったこと、なんなら綺麗事とされるテーマが同時にあるから、その問題にも説得力が生まれていて、本当に高く評価したい。

プロの作家さんてほんとすごいとあらためて思ったところ

夢乃先生全部すごいと思ったんだけど、一つだけ挙げるとしたら、
飯田さんが偵察と称して他のホテルに行く設定とか、上手いな〜って思う。
だって自然にデートの流れができちゃうじゃん!
これがプロの技かー!!(膝を打つ絵文字)
単純かもしれないが、私には目からウロコの技だった。

ホテルという、非日常を過ごす人ばかりがいる場所と、別世界に放り込まれた異邦人・直央。
この取り合わせの妙も、プロの技なんだろうな。

この作品で夢乃先生を初めて知った。注目していきたい作家さんが、また一人増えた。

ちなみにこの作品には対になる作品が既に出ていた。

こっちは「冴えない主人公が超絶イケメンと?!」の定番パターンのように見える。でも何か違う予感がする。
めちゃくちゃハマった作品の別世界バージョン、気にならないわけがないので、今度はこちらも読んでみることにした。実はもうポチってある。
私も日常から少し離れて、別世界の異邦人になるために。

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