Les cheveux/髪
知らぬ間につい溜まってしまい、片付けが大変なものはそれぞれにあるでしょうが、私の場合は紙類です。
それも切れ端やら、どこかから破り取られたページやらが多いのは、そこに何か気になる文章があったからに他なりません。
今日もファイルの中からふと出て来たのがランジェリーカタログの1ページで、ここには何とも不思議なことに、19世紀に生まれた詩人の詩の一節が掲載されています。
『シモーヌ、君の髪の森のなかには
大きな秘密がある』
薄青い背景の中、繊細なレースの下着をまとった綺麗なモデルとこんな詩の取り合わせは、美しくはあるものの風変わりで、どんな方がこれを企画したのだろうと思います。
他のページはありふれた構成で、唐突にフランス詩が掲載されているようなことはなく、だからこそ私はこのページだけを保存したのだなと、当時を思い出しました。
幸運にも私はこの詩の掲載された詩集を持っており、自宅のささやかな本棚の前に立って、久しぶりにページを開いてみました。
この詩の作者はRemy de Gourmont(レミ・ド・グールモン)、1858年にフランスで生まれ、この作品『Les Cheveux(髪)』は、1901年に編まれた連作【Simone(シモーヌ)】のうちの一作です。
呼びかけられるシモーヌという女性は実在せず、グールモンの理想の人である、と言われています。
日本語でもいくつかの訳が読めるのですが、それほど長くも複雑でもない詩のため、既出の翻訳も参考にして、自分でも訳をつけてみました。
神秘的で心のざわめくような詩を、どうぞお楽しみいただけたらと思います。
◆◆◆◆◆
Les cheveux
Simone, il y a un grand mystère
Dans la forêt de tes cheveux.
Tu sens le foin, tu sens la pierre
Où des bêtes se sont posées ;
Tu sens le cuir, tu sens le blé,
Quand il vient d'être vanné ;
Tu sens le bois, tu sens le pain
Qu'on apporte le matin ;
Tu sens les fleurs qui ont poussé
Le long d'un mur abandonné ;
Tu sens la ronce, tu sens le lierre
Qui a été lavé par la pluie ;
Tu sens le jonc et la fougère
Qu'on fauche à la tombée de la nuit ;
Tu sens la ronce, tu sens la mousse,
Tu sens l'herbe mourante et rousse
Qui s'égrène à l'ombre des haies ;
Tu sens l'ortie et le genêt,
Tu sens le trèfle, tu sens le lait ;
Tu sens le fenouil et l'anis ;
Tu sens les noix, tu sens les fruits
Qui sont bien mûrs et que l'on cueille ;
Tu sens le saule et le tilleul
Quand ils ont des fleurs plein les feuilles ;
Tu sens le miel, tu sens la vie
Qui se promène dans les prairies ;
Tu sens la terre et la rivière ;
Tu sens l'amour, tu sens le feu.
Simone, il y a un grand mystère
Dans la forêt de tes cheveux.
◇◇◇◇◇
Les Cheveux
シモーヌ、君の髪の森のなかには
大きな秘密がある。
君は干し草のにおい、けものが
身を横たえた後の石のにおいがする。
君は革のにおい、箕で振るわれたばかりの
小麦のにおいがする。
君は森のにおい、朝に運ばれてくる
パンのにおいがする。
君は廃墟の壁づたいに
萌え出た花々のにおいがする。
君は木イチゴのにおい、雨に洗われた
木ヅダのにおいがする。
君は日暮れに鎌で刈られる
燈心草とシダのにおいがする。
君は柊のにおい、苔のにおいがする。
君は生垣のかげで次々と実を落す
赤茶けた枯れ草のにおいがする。
君はイラクサとエニシダのにおいがする。
君はクローバーのにおい、
ミルクのにおいがする。
君はウイキョウとアニスのにおいがする。
君はクルミのにおい、熟れて
摘み取られる果物のにおいがする。
君は葉むら一杯に花咲くときの
柳と菩提樹のにおいがする。
君は蜂蜜の匂い、牧場の草原を
歩きまわる命のにおいがする。
君は大地と川のにおいがする。
君は愛のにおい、火のにおいがする。
シモーヌ、君の髪の森のなかには
大きな秘密がある。
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