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日本外食新聞掲載原稿 第65話

第66話が掲載されたので第65話をアップします。
今後どうなるかわからないドキュメンタリー(実話)連載です。


実録!飲食業界のパラダイムシフトに田舎の喫茶店マスターが巻き込まれたとき、現場をこなしながらどのように活路を見出すか。641日目。


桜も散り普段の通勤風景が眩しい新緑に変わった4月末日。気温は25℃を超え、自転車を漕ぐだけで首筋がうっすら汗ばむ陽気となっていた。世間は今、ゴールデンウィーク真っ只中だ。車の量も若干多い気がする。
愛知県ではこのゴールデンウィークに合わせて4月28日からを「厳重警戒期間」と発表したが正直誰の耳にも届いていないだろう。実に3年ぶりに全く規制のない、行動制限もないゴールデンウィークになるのだから皆さんがそれはそれは浮かれているのを肌で感じる。まずは県外へ出るだろうなぁ。あれだけ「県外への移動は自粛してください」なんて言われてたんだから、一気にその反動が来るだろう。勿論その移動でコロナ陽性者が増えることは火を見るよりも明らかだが、私の予想では今回は流石にメディアも「陽性者が増えていることを言及する内容の報道は控えめにする」と思われる。もう今更煽ったところでなんの効果もないし、経済を回す方向に舵をきった政府からも過剰な報道は差し控えるようにお達しが出ているはずだ。生活様式が大きく変わってしまった為、すぐにコロナ前のような状態に戻ることはないだろうが、徐々にでもいいからマスクや消毒や検温が無かったあの頃の日常に戻りたいものである。

お店に到着しいつものようにコーヒーを淹れて新聞を広げた時、一面の記事に胸をキュッと掴まれた。「親ガチャ」というワードが目に飛び込んできたからだ。最近話題のこの言葉は本来あまりいい意味ではなく、どちらかと言うと貧しい家庭をさす差別用語的な意味合いを多分に含む感覚で、あまり使ってほしくないと思っていたのだが、まさか新聞の一面でこの言葉が扱われるとは…その記事によればコロナの影響でひとり親家庭の収入が平均13万円まで減っていて、それが子供の学力低下に直結している云々とのこと。わざわざ一面で書かなくてもいいような分かり切った内容だったが、やはり貧困というワードにどうしても引っかかってしまう。自分もお店をオープンした頃、ほぼほぼ毎月赤字であの頃はたしか12万円ぐらいで生活していた記憶だ。子供がまだ一歳だったのでなんとか我慢できたが、小学生や中学生の子供がいたらとてもじゃないが厳しかったに違いない。今こうして決して裕福ではないにしろ普通に生活できるようになって思うのは、せめて自分が関われる範囲の中だけでも困っている人や子供がいたら助けたいということだ。何ができるか分からないが、秘密工房というブランドで得た利益のうち数%でもいいから還元できたらと、この13年間営業させて頂いた地域に少しでも恩返しできたらいいかな、と…いかんいかん、考え出したらキリがない。すっかり冷めてしまった珈琲を一気に飲み干し、すぐさま掃除に取り掛かった。

開店時間5分前、外の様子を見てきたスタッフが興奮気味に鼻を膨らます。
「ヤバいっすよ。隣の家の前まで行列になってます!!」
シャッター越しに聞こえるガヤガヤした様子から予想はしていたがそこまでだったとは。うわぁ〜懐かしい3年前の…コロナ前の風景が戻ってきた!!(涙)あの頃は毎日シャッター越しに聞く「ずっと待ってるんだから早く開けてよ!」的なガヤつきにちょっとうんざりもしていたのだが、それが無くなって丸2年、ようやく!久しぶりに聞くこの喧騒にこれほど感謝の気持ちが溢れてくるとは思いもしなかった。あの頃は行列が当たり前で驕ってたなぁ…反省反省だ。
開店と同時にお客様がなだれ込み瞬時に満席、一巡目で入れなかった方々は名前と電話番号を書いて空き次第お呼びすることになる。ここからランチが終わる14時30分までは戦争だ。みんな県外に遊びに行ってるものだと思っていたが、そうでもないんだな。やはりこの2年で染み付いた生活様式はそうそう簡単に壊せないのかもしれない。家族に年配者や子供がいるとどうしても「伝染せない・伝染したくない」という気持ちが先に出るので行動が慎重になってしまうのだろう。確かに親の介護をしている人が「無理無理!どっこも行けないよぅ。やっぱりどこかでコロナを拾っちゃって家族に伝染したらって考えると申し訳ないもんね。どうせあと数年で死ぬことは分かっているんだから、せめて最後ぐらいはコロナじゃなくてゆっくり死なせてあげたいからね」って言ってたな。そりゃそうだよな。最後がコロナで死に目にも会えないなんて最悪だもんな。

4月29日からスタートしたゴールデンウィークだが、日を追うごとに来客数が上がっている。とはいえ、夜の来客数はそこまででもないので、結局はお昼の時間帯に集中してしまうのだが、いかんせん14席しかないためどうにも回すことができない。タイミング悪く名前を書いた人は下手すると90分待ちとかになってしまい申し訳ないのだがこればっかりはどうしようもない。
「もうアクリル板外しちゃいますか?」
「そうだなぁ、これ以上お客さんに迷惑かけられないもんな」
以前はアクリル板を置いて感染対策やってます感を出さないと協力金がもらえなかったので渋々置いていたが、よく考えたらもう協力金も出ないんだし、今更それを咎められたところで誰が損をするというのだ。消毒って本当に必要なのか?まぁ無いよりはあった方がって気休め程度だろうが、じゃあ検温はどうなのか?アクリル板はどうなのか?二酸化炭素濃度計はどうなのか?この二年で一式置いてあることに安心感を覚える人が一定数いることは感じているが、それが普通の状態ではないことも分かっているはずだ。いや、本当に分かっているのかなぁ。お店側も置いてあることがデフォルト化してきて、惰性で疑問を持たなくなってきていることに私は危機感を覚える。長いこと同じ状態が続くと人は考えなくなるものだ。どこのお店の入り口にも消毒薬が常備してあって、検温があって、食事中以外マスクの着用を求められる。食事を口に運ぶ一瞬だけマスクをずらして口に入れたらマスクを戻して咀嚼する。楽しい外食の風景ってこんなんだったっけ?みんななぜ疑問に思わず当たり前のようにそれを受け入れているの?もう考えることも面倒臭くなって生きる楽しみを諦めたの?日本人ってものすごく他人の目を気にするし同調圧力に弱いから、政府からしたら扱いやすい家畜に過ぎないんだけど、もうちょっと自己主張してもいいような気もするんだが…まぁ余計なお世話か。そんな政府の方針になんの疑問も持たない一般人を相手にこっちも商売をしなきゃいけないんだから、彼ら彼女らが喜ぶような感染対策をやっていれば何の問題もないのだが、いかんせん私の性格からどうしてもそんな烏合の衆に一石投じたくなってしまう。
「よし、アクリル板もマスクも取って営業してみるか(笑)」
誰かが先陣を切ってやらなければ変われるものも変われなくなってしまう。まぁ大手チェーン店がそんなことやったらメディアに取り上げられて袋叩きに遭ってしまうが、うちみたいな個人店ならせいぜいネットで小言を言われる程度で、そこまでの被害は出ないだろう。それよりも長時間待ってくれているお客さんを入れてあげることの方が重要だと考える。すぐさまアクリル板を外しお客様を案内した。座っていた隣のお客さんは『えっ?隣座るの?まじ?近すぎない?』って顔してたが無視。あまりいい顔していないのは明らかだが、普通に考えたらコロナ前はこれが当たり前の風景だったのだから、強制的に戻していくにはちょうどいいカンフル剤になるだろう。というわけでそのままの状態でゴールデンウィークを営業してみて分かったのは、隣が近い→落ち着かない→早く帰るので回転率が上がるパターンと、隣が近いけど全く気にしていない→コロナ前の状態に直ぐに順応できるパターンに分かれることだった。もうこのままでいいかな、うん。早くアクリル板があった過去を笑える日が来ることを願う。あの惨めな風景はなんだったのかと…

5月10日、ゴールデンウィークが終わって秘密工房ECサイトのクレジットカード決済の不具合解消と最終調整に追われていたが、午後に入って全て完了し遂にサイトの一般公開がスタートした。やっとここまで辿り着いたぞ。セントラルキッチンを作ってから丸2年かかってしまったが、ようやくスタートラインに立つことができた。これから商品を一つずつ増やして販路を拡大していくつもりだが、まずは当然ティラミスからのスタートになる。4月の販売を見送ったことで待っている人もいるだろうからな。その次は定番のブランデーケーキ、そして店内販売で無茶苦茶評判の良かったチーズテリーヌも夏までには投入する予定だ。いやぁ〜今後が楽しみで仕方がない。




カフェパルランテ/秘密工房  三井隆義

〒487-0026 愛知県春日井市不二町2-6-7  0568-53-2477

営業時間 12:00~22:00 (ランチ12:00~14:30LO・ディナー17:30~21:00LO)
不定休(noteで告知します)
P7台(乗り合わせて来てください)

http://www.caffeparlante.com/ ←カフェパルランテの歴史(2009年7月~)
https://www.facebook.com/ciccio.don.925 ←マスターのFacebook
https://www.Instagram.com/caffeparlante2009 ←マスターのInstagram


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三井隆義:元喫茶店マスター
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