はも
鱧の季節になった。
大阪の天神祭や京都の祇園祭の声を聞くと、鱧を食べたくなるというのは関西人の特徴かもしれない。
小学生の頃、夏休みに東京にいる祖父母に会いに行く際、必ず大阪から鱧を運んだこと思い出す。大阪から東京に移り住んだ祖父母が、関西の夏の味を懐かしんで母に調達を頼んでいたようだ。
今でこそ東京でも、夏になれば鱧を出す店が増えているが、つい最近までは関西でないと食べることができなかった食材のひとつである。
鱧を食べるのが難しいのは、骨切りをしなければいけないからだ。
料理屋のカウンターで、鱧をさばいていく料理人の姿は、何度見ても惚れ惚れするものである。
見せ場は、やはり骨切りである。鱧の身を数ミリの幅で正確に包丁を入れていく。シャクシャクとまるで新雪を踏んでいるような音が規則正しく、料理人の手元から聴こえてくる。
鱧の身には骨が多く、そのままでは食べられない。骨切りをすることで、あの独特の歯触りとやわからさを作り出すのだ。
シャクシャクと規則正しく刃を入れていく姿は、難しいことをしているようには見えない。しかし、この骨切りが上手く行かねば、身はばらばらになったり、あるいは硬い骨が食感を台無しにしてしまう。淡泊で繊細な身だけに、ぞんざいな扱いをしたものは、旨味も抜け、乾燥したようになり、あまりに無味なために、嫌ってしまう人もいる。それでは残念だから、一度はきちんと調理された鱧を味わう方が良い。
鱧は白身の魚であり、非常に淡泊な味である。それだけに梅肉や辛子酢味噌をたっぷり付けすぎると、鱧の持つ繊細な旨味を味わうことができなくなる。
湯引き、焼霜造り、鱧寿司、しゃぶしゃぶなど、盛夏の関西の味である。暑い日々、真っ白な身と、梅肉や辛子酢味噌が食欲を誘う。鰻や穴子とは違い、脂をほとんど感じさせないのも、暑さに参った身体に優しい。
子供の頃は、さして美味しいとは思わなかったが、大人になって解る味の一つでる。