「文学フリマ東京38」で買った本、買えなかった本
2021年から毎回、出店し続けている「文学フリマ東京」。自分が作ったZINE(同人誌)を販売することが当初の目的だったが、他の出店者のブースを見て歩くのも大きな楽しみになっている。自店を離れて出歩けるのは共同出店者がいたり、売り子の手伝いをしてくれる人たちがいてくれるからでもある。改めて感謝。共同出店には、相乗効果とか、店の文脈形成とか色々メリットはあると思うのだが、自分も1人の客になって会場を歩きまわることが可能になる、という点も大きい。
ということで、まず、今回買った本を紹介したい。
銀河鉄道のメニュー
添付のツイートに書いたことだが、ツイート字数オーバーのため表示されていないので、重ねて書いてしまうが、自分の出店場所の向かいのブースの看板に書かれていた「銀河鉄道」の文字にひかれて訪問した。
宮沢賢治に関係した作品、あるいは賢治作品にちなんだ、店名、作家名を、これまでの文フリでもよくみかけてきた。文学界隈での賢治の存在感はそれだけ大きいということなのだろう。つい1年半ほど前まで賢治のふるさと岩手県に住んでいたこともあって、見つけたら立ち止まることが多い。
この「銀河鉄道のメニュー」は、童話「銀河鉄道の夜」にインスピレーションを得て考案したオリジナル料理のレシピ集だ。ムースを青いゼリーで包んだ「プリシオン海岸でとれた海の幸オードブル」など、作品への想いが伝わる料理群をカラー写真で紹介している。全部書ききれないが、どれも心ひかれるものばかりだった。
作者の神宮寺恵美さんによると、「銀河鉄道の夜」の舞台設定には、いわゆる西アジア地域の香りがただよっているのだそうだ。賢治が現在のイランなど中東や西域に関心を寄せていたことは、西域史研究者の金子民雄さんの著書などで知ってはいた。。
「銀河鉄道のメニュー」には、中東で広く食べられているひよこ豆のペースト「フムス」(ホンモス)や、クロワッサンのもとになったともいわれるトルコのパンも盛り込まれていた。作品そのものだけでなく、賢治の嗜好も意識した料理構成になっているところに、神宮寺さんのこだわりが感じられた。
神宮寺さんは、こうした料理を提供する料理店を開く「夢」も持っているそうだ。ぜひ実現させていただきたいと思う。
天皇スポット探訪記
さて、その次は、歴代天皇にまるわるスポットを紹介する本。ツイッターにも書いたように、共同出店者の比呂啓さんが買ってきたのを見せてもらってブースの存在を知った。
比呂さんが買ってこなければ、おそらく自力でブースにたどり着くことはできなかっただろう。
他者の発見力に期待
これまでも、共同出店者や知人・友人に、「何か面白い本あった?」とわりとしつこく聞いているのも、こうした第三者を介した作品との出会いがあるからだ。これだけ出店者数が増えると、そうした間接情報がますます重要になっているような気がする。
ブースにいらっしゃった文学フリマ運営スタッフの方との雑談の中で思わず言ってしまったが、出店ブースを分類するなどして紹介する「メディア」のようなものがあるといいな、と感じる。事前にウェブカタログを読み込み、「気になる!」ボタンを押してピックアックするようにはしているが、何しろ読み込みが大変だ。
人それぞれの嗜好に合いそうなブースを抽出してくれる何らかの仕組みがあったら、どんなにいいことか、と思う。
会場が3区画に分かれ、それぞれがあまり広いので、当初から覚悟していたことではあるが、自ブースの周りぐらいしかぶらつくことができなかった。
芥川賞作家のサイン
そんな中で、わりに自ブースと近かったおかげて偶然、立ち寄った「京都ジャンクション」というブース。
メンバーのひとり、高瀬隼子さんが芥川賞を受賞した時に新聞記事をみていて覚えていた。ご本人がブースで黙々とサインをしていたことにちょっと驚きながらも、多少のミーハー心もあって、商業本の最新作を買ってサインしていただいた。すでに読了。批評能力の関係で内容を紹介するのは控えたいが、高瀬さんの他の作品も読んでみたいと思った。
この作品が、動画配信サービス「U-NEXT」の出版部門から出されていたことにも驚いた。本のつくりが薄めのペーパーバックだったのも面白いと思った。メディア・ミックスといっていい現象なのか。既成の出版産業の外からの参入が、本のあり方に変化をもたらしていくのだろうか。
自分の本を売りながら、なおかつとても広い会場を歩きまわってブースをチェックするのは、どだい無理なことなのかも知れない。
募る後悔
イベント終了後、ツイッターで「#文学フリマで買った本」のハッシュタグ検索をしていると、「あっ、こんな本もあったんだ」というのがボロボロと出てきて、悔しい気持ちになる。
出店と会場巡回の両立は、やっぱりかなり難しいのかも知れない。一度、出店せずに会場めぐりに専念してもいいかも知れないとも感じている。今後の検討材料。偶然の発見や出会いがあるのが文学フリマという場所の面白さなのだから。