文学フリマをからめた旅の効用…札幌の独立系書店のイベント参加など
文学フリマ札幌への参加は、昨年に続いて2回目になる。出店者の数はどんどん増えていて、ZINE・同人誌の熱は津軽海峡を越えて伝わっていることがうかがえる。北海道の分厚い文学風土を考えると、それも驚くことでもない、ともいえるのだが。
カフェバグダッド の「看板ZINE」である「日本で食べられる中東料理ガイドブック」には、残念ながら北海道の店は紹介されていない。
そもそも北海道には、私が知る限り、中東料理レストランは、札幌にトルコ料理店がひとつあるだけだ。
そんなこともあって、イベント前には、売り上げという面では、札幌の文学フリマは厳しいのではないか、と感じていた。だが、いざふたをあけてみると、北の大地での中東(料理)への関心の高さを感じることになった。
「この本を入手することが、文学フリマに来た目的です」などと言ってくれる方も結構いた。各種ZINEをまとめ買いしていただいた方もいた。とてもありがたいことだった。
結果、めでたく完売となり、一部のお客様には、本拠のひとつ、埼玉にもどってから、郵送で対応させてもらうことになったのだった。
文学フリマを撤収した後、市内の「円錐書店」さんで開かれた、南陀楼綾繁さんのトークイベントに参加した。
南陀楼さんは、大学時代に属していたサークル(日本民俗学研究会)の一年先輩で、数年前の「文学フリマ東京」でばったり再会し、交流が復活した経緯がある。
私が文フリ札幌に出ることを出店者リストで知り、自ら声をかけてくださった。テーマは「アンソロジーを読む、アンソロジーを編む」 。最近、南陀楼さんが選者の「中央線傑作随筆傑作選」という文庫本が出版された機会をとらえた企画だった。私自身、大学時代の4年間、高円寺に住んでいたこともあり、中央線という「くくり」にも興味があった。
「撰文集」などとも訳される、アンソロジーとは一体なんなのか、アンソロジーを編む「アンソロジスト」というのは、どういう人なのかなど、知っているようで知らなかったモヤモヤしていたことが、トークを聞いてかなりクリアになった気がした。
実は私のZINEラインナップにも「アンソロジーvol.1〜vol.3」というエッセイ集シリーズがある。だから、前からアンソロジーという言葉の意味についてちょっと気になっていた。
アンソロジーの定義ついて南陀楼さんは、「複数の作者の作品を集めたものというのが一般的」と説明した。つまりひとりの作者が書いたものの撰文集は、アンソロジーということばから若干はずれると。そのあたりの一般的位置付けについても分かり、気持ちがすっきりした。
トーク後は、南陀楼さんや円錐書店の店主さんや、参加者のみなさんの打ち上げにまぜていただき、つぶ貝煮やカスベの唐揚げ、ラーメンサラダを肴に、北海道の酒「北の勝」などを味わった。
翌朝、札幌をあとにして、汽車で南下、白老町の「民族共生象徴空間(ウポポイ)」へ。敷地内にある国立アイヌ民族博物館や、屋外に再現されているアイヌ様式の住宅などを見学した。
白老駅から鉄道で登別方面へ。虎杖浜という駅で降りて、電話で予約してあった民宿にチェックイン。この虎杖浜、薄いエメラルド色のアルカリ性の温泉が湧出する土地で、数年前にも今回とは別の民宿に泊まったことがあった。せっかく北海道に来たので、その温泉をまた楽しもうとやってきたのだった。ただし、今回の民宿には内風呂はなく、徒歩数分の2つの温泉に足を運んだ。
ここ数年、札幌、岩手、大阪、京都、福岡と、文フリ巡業を続けているが、本番イベントだけでなく、会う機会がなかった知人友人との再会や郷土料理などの「余録」が捨てがたいのが、この旅の魅力だ。