和菓子、この味《だるまや餅菓子店の宇治金時》
都内で天然氷のかき氷をはじめた先駆けとして名高い「だるまや餅菓子店」。同店の「宇治金時」は素材の存在感が鮮明だ。ふわりとした口溶けの天然氷に合わせる抹茶は、シロップに仕立てたものではなく、注文ごとに水で点(た)てたもの。抹茶の風味がダイレクトに伝わり、そのすがすがしさをふっくらした粒あんがやさしく包む。後味はすっきりとし、清らかな余韻が残る。
同店の宇治金時はスタンダードなタイプ(1200円)のほか、順に抹茶のグレードが上がる「特選」「極上」「別格」もそろい(1600〜3200円)、グレードが上がるほど、抹茶本来の旨味や甘味が強まる。在庫に応じて、または予約で、さらに上級のものも注文が可能で、たとえば最上級の抹茶に玉露のエキスを加えたものは、旨味と甘味が増幅した味わいに驚かされる。「現在はたんに“かき氷”という枠内で考えるのではなく、“素材のおいしさを完璧に伝える”ことがテーマ。自然のすばらしさを表現したい。お客さまの味の概念が変わるようなおいしさを提供したいと思っています」と同店3代目店主の河田さんは語る。
同店は下町の活気あふれる十条銀座商店街で75年の歴史をもつ、甘味処併設の和菓子店。2代目の河田さん夫妻と息子の3代目店主を中心に営む。天然氷のかき氷をはじめたのは2005年ごろ。「お客さまから埼玉・長瀞の天然氷のかき氷のお話を聞き、すぐに行って食べて感動して。これが“僕の人生の第一歩”でした」と3代目。天然氷を導入してまず、扱い方や削り方を研究したそう。氷は少し常温におき、表面が溶けかけた状態を確かめてから削る。口の中でふわっと溶ける羽のような薄さに削るには、氷削機の刃の角度の調節が要かなめだが、気温や湿度でも氷の状態は異なり、氷との“対話”が一番重要だという。
天然氷は、3代目が素材を探求するきっかけともなった。志の高い生産者との出会いや、すしやフランス料理など幅広いジャンルの一流店を食べ歩くことなどによって、おいしさの基準や産地、製法についての見識を深め、“最高の素材”探しに注力してきた。近年、3代目は次のような考えに至ったという。「かき氷にもっとも合う素材は、お茶やコーヒーだと思います。氷は溶ければ水になる。お茶もコーヒーも水やお湯で抽出しますから、相性がいいのは自然なこと。果物のかき氷もポピュラーですが、果物は通常は水で薄めないですよね。そのまま食べるのが一番おいしい」。抹茶や煎茶は、目利きや合組(ブレンド)に信頼を寄せる京都・宇治や福岡・八女の製茶会社から、旨味成分が豊富な上質な品を直接仕入れる。また、低温で抽出したほうが、より渋味が出にくい。同店では煎茶を氷で抽出した「一滴煎茶」も供しており、力強い旨味と甘味に感動するお客は多い。「抹茶や煎茶が苦手な方の多くは、渋味や苦味が原因。“本物の味”をできるだけ価格を抑えて提供し、お茶が苦手な方にこそ、おいしさを知って好きになってもらえたら」と3代目。コーヒーのかき氷も、スペシャルティコーヒーの豆を使い、独自の工夫で苦味のないものを追求している。
なお、果物などを使うかき氷も、“別格級の素材”(3代目)に限り提供している。たとえば、「南高梅」は“超完熟”の時期に和歌山県の農家に出向き、風味を一刻も早く封じ込めるため、現地で「有機砂糖」と和三盆糖で漬けてシロップを仕込むという。
共通点は、どのメニューもシンプルであること。「すばらしい素材ほど、余計なことをしてはいけない。見た目は地味かもしれませんが、自然の力、生産者さまの思いを理解し、お客さまの体にやさしい最高のものをつくりたい」と3代目は語る。
一方、宇治金時のもう1つの主役である粒あんは、2代目が約50年磨き続ける“だるまやの味”だ。特徴的なのは、アズキの粒が美しく保たれつつ、皮を感じさせずに芯までやわらかいこと。その秘訣は、アクを取る工程などを経て本格的に煮る際、「沸騰後はアズキがかすかにプクッ、プクッというくらいのうんと弱火でゆっくり約3時間煮ます。アズキを躍らせるのは御法度。皮が破れ、呉(中身)が出て風味がなくなっちゃう」と2代目。この煮る工程の前段階と、煮終えて「有機砂糖」を加える前に各1時間蒸らすのも、皮をいっそうやわらかくするポイント。「氷と合わせると、冷たさでとくにアズキが締まりやすい。最後のひと口までおいしいやわらかさに仕上げるのは本当に難しく、神経を使います。“アズキが命”ですからね」と2代目は語る。
昨年6月、3代目は京都の清水寺近くに、かき氷やほうじ茶ソフトクリームなどを看板商品とする「京都宇治金時や」を開業。新たな一歩を踏み出した。「日本の方にも外国人観光客の方にも、“日本の本物のおいしさ”をお伝えしたいと思っています」。
※本記事の掲載内容は取材当時のものです。