本物の輝き
一年前のことですが、店のテラスの庇に「おにやんま君」をぶら下げました。
ご存知の方も多いと思いますが、「おにやんま君」は蚊やハチ等を避けることができるといわれる虫除けグッズです。
当店は山の中にある喫茶店のため、網戸や扉の開閉の度に店内へ虫が入ってしまうことが多く、テラスの庇と玄関の2カ所におにやんま君を設置しました。
ある日の閉店後のことです。
テラス庇の下のタイルに、おにやんま君が落ちていました。
ところが庇を見上げてみると、おにやんま君、ちゃんとぶら下がっています。
そして落ちている方をよく見ると……
なんと本物のオニヤンマでした(すでに絶命)。
偽物のおにやんま君に戦いを挑んで力尽きたのか、あるいは求愛して傷心の末亡くなったのか、たまたま息も絶え絶え状態の時に仲間を見つけたと思って近寄って果てたのか、原因はまったく不明ですが驚きました。
そこで、偽物と本物を比べてみることに。
テラスの庇のおにやんま君(①)は若干リアルさに欠ける雑な作りですが、玄関設置のおにやんま君(②)はわりと精巧にできています。
それぞれを本物と並べてみましょう。
偽物の方が少し大きいのですね。
そして、どちらも明らかに本物と大きく異なるのは、眼です。
(トンボの顔のアップ画像がありますので、苦手な方はお気をつけください)
まずはおにやんま君①の眼。
同じく人工のおにやんま君②の眼。
そして、本物のオニヤンマの眼。
死んでいるとは思えない、吸い込まれそうな透明感です。
本物ってすごい。
撮影後、オニヤンマの亡骸は花壇に埋葬しました。
夏になると毎年オニヤンマが飛んできて、その大きさ、スピード、色、すべてに圧倒されます。
もう何年も前のことだけれど、ちょうどお盆の時期に、網戸の外から店内を覗き込むように何度もホバリングして、とうとう店内に入ってしまったことがありました。
「お盆は仏様があらゆる生き物に姿を変えて現れるから、この時期に殺生をしてはいけない」と聞かされて育ったわたしは、店に飛び込んだオニヤンマを外に出しながら、「おばあちゃん? おじいちゃんかな? それとも本家じいちゃんか本家ばあちゃんか、それともおばちゃんかな……?」と話しかけていました。
どなただとしても、こちらは元気でやっているよ。
標高1130mのここでは木々の葉に黄色いものが混じり出す季節。
オニヤンマに会えるのも来年までお預けとなりそうな夏の終わりです。