須恵村の協同 -組制度-
現在、須恵村の協同について調べている。形成される共同体において、その共同体の相互関係がどのように維持されるのか。その一つの例として須恵村について紹介していこうと考えている。個人主義だった時代も変化し、今後は共同体が再び増加していくと予想できる。そうした状況の中、一つの示唆として役立てればと思う。
前回は須恵村とこの村において協同がもたらされる5つの要素について触れた。その5つが下記に記載する5つの例だ。
1 組による当番制
2 協同作業
3 手伝い、加勢(葬式、家屋の建築、非常事件)
4 かったり(交換労働)
5 信用組合(講)
今回はその5つの要素の中から1番の組制度について記していこうと思う。
組制度
この村におけるコンセプトのようなものが協同であるということがこの村に滞在したエンブリー夫妻によるエスノグラフィーにおいて導き出した一つのこの村の側面だった。
この協同をもたらす一つの要素として、組制度があげられる。
これは部落を細分化し3から5世帯で構成される小グループに分け、交代制で村の行事等を運営するものだ。部落において様々な組が存在し、祭事の運営を主とする組のほか、ちざし(血刺し)と呼ばれる馬の家畜の治療(木枠に馬や牛を入れボロで包んだ鉄を家畜にこすりあわせて治療を行う)のために組の他、女性のみで構成される髪油作成のための組、葬式運営や用水整備のための組も存在する。
この組の形態は、江戸時代に制度化された5人組制度とも類似しているが、幕府から強圧的にもたらされたものと、社会的必要性からもたらされたものとで相違がある。
エンブリー夫妻が強調したいことは、この組制度というものが自主的な制度であり、これを統括する頭となるものが存在しない平等的な社会であるということだった。
それに加えて特筆すべきことは、エンブリー夫妻が滞在してから70年程経過しているが、それでもなお現在まで、この組制度が継続して存在しているということである。住民主導で現在まで村を支える制度として存在している。村の住人自らで現在まで継続し続けているということが共同体における重要な要素であると言えるだろう。
こうした須恵村という共同体を例にとり、共同体の継続に関して考えてみると、継続するうえで必要な要素は協同的な活動だと言える。あたりまえのことと簡単に捉えてしまうかもしれないが、個人主義の台頭した社会においては、持続的なコミュニティーを成立させるために必要な要素だろう。その共同体に所属する各々が集まり、定めたルールはその共同体内で役割を生み出す。それぞれが共同体を営む上で、その運営の一部をになっているという、役割をこなすことで得られる無意識的な意識が、その社会への帰属意識をもたらすと考えられる。
近年、多くのオンラインコミュニティーが形成されつつある。
総務省の統計によればオンラインコミュニティへ参加する人は増加している。
(出典)2008 年度調査:総務省「ユビキタスネット社会における安心・安全なICT 利用に関する調査」(2009)
2017 年度調査:総務省「ICT によるインクルージョンの実現に関する調査研究」(2018)
掲載URL:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd143510.html
現実のコミュニティの在り方、仮想空間上のコミュニティの在り方は異なるかもしれない。しかしながら、その本質となるところに大きな差異は存在しない。今後、よりオンラインでのコミュニティが増加する中で、過去における事例は、その運営において示唆を与えるだろう。役割や共同での活動の遂行が、例え仮想空間上であっても、その連帯を強化するうえで役に立つのではないだろうか?
参考文献:田中一彦著「忘れられた人類学者 エンブリー夫妻が見た〈日本の村〉」忘羊社 , 2017年
表紙絵 :筆者