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パン屋の駐車場で

私が妊娠9ヶ月、出産までもう間近という時、
とても人気のあるパン屋さんに買い物に行った。
どうしてそのパン屋さんに行くことになったのか、
(そのパン屋さんを元々知っていて行くことになったのか)、
何も思い出せない。ただ、行き当たりばったりに行っただけかもしれない。

私は、正社員で働いていたので、おそらく、週末に妊婦検診かなんかの帰りだったのだと思う。
同居人と2人で車に乗っていて、車は同居人が運転していた。

店の前の道路から左折して、すんなりパン屋さんの駐車場に入ったのだが、私は、駐車場に入る直前に、道路の対向車線に右折で駐車場に入ろうとしている車の行列があることに気づいた。

同居人に、「あれ、あっち側に駐車場に入ろうとしてる車の行列があったよ。こっちから入っちゃったら、まずかったんじゃない?」
同居人は、「え?」と言ったけれど、
いつものように、私の言葉を無視して、すーっと駐車してしまった。

私は、妊娠9ヶ月で、ものすごいお腹が大きかった。
暑くて、歩くのも大変だったから、同居人に無視されて車が駐車してしまったので、面倒くさくて、そのまま2人でパン屋に入ってしまった。

パン屋に入ってしばらくして、静かな店内に入ってきた女性が
ものすごい大きい声で、私たちを怒り始めた。
私は、列に気づかずに先に入ってしまったことを怒っているのだと思って、「すみませんでした。列が逆側に並んでいたことに、気がつかなかったんです」と言った。
女性は、より一層、怒り始めて怒鳴っている。

私は、自分が妊娠9ヶ月で、お腹がものすごい大きい状態で、
びっくりする程の大声で怒鳴られたのが、すごくショックだった。

しかも、運転していたのは、私ではなくて、同居人で、
私が、横入りするように指示を出したわけでも勿論ない。

その女性は、私が妊娠していて、大きなお腹で、自由に動くことも出来ず、弱者に見えたから、私の方を怒鳴ったのだと思った。最初から私を怒鳴っていたように見えた。

私は、店を出た後、ショックで涙が止まらなかった。
出産するまでの間、出来事を思い出しては、一人でしくしく泣いていた。

同居人は、一言も何も言わなかった。
パン屋で怒鳴られた時も、その女性にあやまりも、弁解もしないし、
私が泣いていても何も言わなかった。

普通なら、友達同士でだって、「びっくりしたね、すごい怒ってたね」と、話し合うんじゃないだろうか。
「運転してたのは、自分だから、ごめんね。気づかなくて、一緒に怒られちゃったね、ごめんね」と言うんじゃないだろうか?

その女性に怒鳴られたことは、もちろんショックだったのだけど、
その後で、同居人のいたわりが一切無い、無いというか、一切無視。
まるで何も起きなかったのかのように、一言もその事への言及がない。

その事が、私を異様な恐怖、母親が私にしてきたのと同じ、
深い深い悲しみの中に突き落とした。

私が泣き続けたのは、生まれてこのかた、私が本来は信頼、安心して良いはずの近い人間に、感情が無かったからなのかも知れない。

漆黒の壮大な宇宙の闇の中に、たった一人私がいる。
あまりにも黒い闇なので、押しつぶされてしまいそうだ。
無限に広がる黒い闇の中に私しかいない。
押しつぶされそうで苦しい。浮かんでいる。
このイメージは、私が、10歳前後に繰り返しみた悪夢である。
それを思い出した。
 
  
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花鳥風月空
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