オンライン剣道レッスンで感じた3つの効果と課題
5月からオランダの子どもを対象に、「コーディネーショントレーニング」のオンラインレッスンを行なっています。頻度は週1日。オランダ時間の日曜朝10時からです。
なぜこのレッスンを始めたのか、どんなことをやっていて、どのような効果を感じているのか、そしてこれからの課題についてまとめます。
オンラインレッスンを始めた理由
少し長くなりますが、オランダの状況説明から入らせてください。
2020年3月11日、世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスの世界的な感染拡大について「パンデミック」を宣言しました。15日にはオランダ政府が記者会見を開き、その中で発表された措置を受けてオランダ剣道連盟は全てのトレーニング活動を停止するよう勧告。
「感染拡大を最小限に抑えるために私たちの責務を果たす」といったメッセージが発信されていました。しかし、感染状況は悪化していき、国全体で「インテリジェント・ロックダウン」が始まります。
「インテリジェント・ロックダウン」とは、外出に対して罰金や許可制度などの厳しい措置はとらず、あくまで個々人の良識に委ねる、欧州の他国と比較すると緩いロックダウンです。ソーシャルディスタンスは守る必要がありますが、フランス・イタリアほど厳しくはありませんでした。
それでも、普段人で賑わうアムステルダムは閑散としていて、友人たちの事業は経済活動を停止し、あらゆることが変化しました。3月から4月半ばにかけては、誰もが「これからどうなるんだろう」と不安を抱えていたと思います。
正直、剣道どころではありませんでした。欧州が大変な状況になっているなか、日本ではまだ稽古が継続されていて「大丈夫なのかな…」と見ていて心配になったほどです。
しかし!一ヶ月もするとロックダウンにも慣れてきて「みんなどうしてるかな」「このまま剣道について何もやらなかったら、せっかく今までみんなと積み上げてきたものが止まってしまう!」と思い始めました。
ちょうどそのころ、剣道コーディネーショントレーニング研究所の先生と連絡を取り合っていて、「いまこの時期にしかできないことを研究しよう」という話があがりました。
①自宅からできること
②剣道の上達にも繋がること
③楽しめること(こんな時期なので、ストレス解消を)
上記3点を満たす、「コーディネーショントレーニングのオンラインレッスン」の企画が始まりました。
コーディネーショントレーニングとは何か
剣道に関わる人で「コーディネーショントレーニング」を聞いたことがある人は少ないかもしれません。簡単に言うと、「コーディネーション能力」とは「運動神経」のことです。
もともと1970年代に旧東ドイツのスポーツ運動学者が考え出した理論で、運動神経を7つの能力に分類しています。
運動競技を行う際は、これらの能力が複雑に組み合わさっています。「運動神経がいい」というと、足が速いとか、高く跳べるとか、ざっくりとしたイメージしかありませんでしたが、科学的に7つに分類できるのです。
①リズム能力:イメージ通りに身体を動かす能力
②連結能力:2つ以上のことを同時にする能力
③バランス能力:身体の体制が崩れてもプレーを続ける能力
④変換能力:状況に応じて身体の動きを切り換える能力
⑤反応能力:合図などに正確に素早く対処できる能力
⑥識別能力:道具や用具を適切な力で正確に操作できる能力
⑦定位能力:自分と相手や物との位置関係や距離感覚を正確につかむ能力
↓コーディネーション能力に関する詳細は下記の記事をご参照ください↓
コーディネーション能力を幼少期から鍛えることで、剣道だけではなく様々な競技にも役立つ力が培われるのです。
オンラインレッスンの内容
では、実際にどんなことをやっているかを紹介します。
▼時間
毎週日曜日のオランダ朝10時(日本17時)にzoomで1時間
▼構成
剣道コーディネーショントレーニング研究所の先生が、コーディネーショントレーニングについて説明し、実際にみんな身体を動かします。途中で先生が「●●さんうまいですね」「●●先生、どうですか?」など声をかけてくれます。
▼トレーニングメニュー(※ 動画を見たい場合はご連絡ください)
・10まで数えよう
・リズムジャンプ
・リズムジャンプ(ペア)
・開閉ジャンプ(ペア)
・リアクションキャッチ(ペア)
・ミラー運動
・ボディリアクション
・ターンナンバーチェック
・じゃんけんシャトル足さばき
・ヒッティング
5月はコーディネーショントレーニングの説明と実践、そして剣道にどう活かすかを説明していただきました。EKC(ヨーロッパ大会)ジュニアの部の決勝動画をみながら今後どんな剣道をしていくべきかについて話したり、防具屋さんの「ばんとう武道商店」さんに登場してもらい、防具・道着・竹刀のケアについて質問する企画をやったりもしました。
効果①コミュニケーションの質が高まった
1ヶ月ちょっと継続してみて、3つの点で大きな効果を感じています。
まずは、コミュニケーションの質が高まったこと。普段、体育館で稽古する際は時間が来たらすぐに場所を受け渡さなくてはなりません。先生に稽古後にコメントはいただけますが、子どもと保護者の方全員がいる場で、じっくり話せる機会は多くはありません。
それに対して、オンラインレッスンは「道場の稽古(実技)」と「学校の授業(座学)」の間に位置するような空気感があり、質問や会話がしやすくなります。
移動時間や場所を確保する手間もないため、保護者の方に声をかけてフィードバックの場を設けることも容易でした。
さらに良かった点は、道場間の連携が高まったことです。今回のトレーニングに参加している道場は5道場で、いずれも子どもを大切に育てています。しかし、住んでいる地域がどの道場も遠いため、各道場の先生同士で話す機会は多くはありません。
今回のことがきっかけで、各道場の取り組みや再開へのガイドラインをシェアするなど情報共有の場ができたことは大きな一歩であると感じます。各道場の先生みんないい人で、個人的に今まで以上に仲良くなれて凄く嬉しく思っています。
子どもたちや保護者の皆さん、他道場の先生の顔が見れて、声が聞けたことも嬉しいです。
効果②知識を深める場を得たこと
先ほど、「オンラインでのレッスンは実技と座学の間に位置するような空気」と書きましたが、一つ一つの動作の意味について先生が詳しく説明してくださって、身体を動かしながらも随時「質問はありますか?」と質疑応答の時間も設けています。
このため、普段体育館で先生に教わり実行するという流れが変化し、知識を深める場ができたのではと感じました。
zoomでのレッスンの様子は全て録画し、先生が撮った見本動画もYouTubeに限定公開でアップし、わからないところは復習できるようにしています。
また、非公開のFacebookグループも作り、そこでお知らせや追加情報も掲載。アカウントがない人たちのためにメールでもこれらのお知らせは全て配信しています。子どもの素振り動画をポストしてもらい、それに対して先生が細かくコメントしてくださる、といった取り組みも行いました。
動画については、先生が日本語で話しているのでオランダ語と日本語ができる女の子が翻訳字幕をつけてくれたこともあります。このように、一方通行型ではなく双方向性や共創体制を目指しています。
効果③自粛期間中も、剣道への意識が途切れない
日本では6月から稽古の自粛が解除されてきていますが、オランダはまだまだ再開までは道のりが長いです。2020年6月時点で、屋内スポーツの再開は7月1日から、剣道の再開は9月1日からと定められています。
4月から9月まで約半年もの間、自宅での素振りやトレーニングを続けなければなりません。先が見えないこの状況は大人でも辛いはずです。競技人口も少ないなか頑張ってきた子どもたちや保護者の方々は、もっと不安を感じていたかもしれません。
オンラインで週1回、一緒に頑張ってきた友達や先生の顔を見て、剣道に関する取り組みをすることは、剣道への意識を絶やさないことに役立っているはずです。
課題は「再開へのロードマップ作り」と「コミュニケーションの継続」
zoomでオンラインレッスンを提供する際、ネックになるのがインターネット環境です。スマートフォンから接続している人も初期はいたのですが、画面が小さいため、現在はタブレットかラップトップからの参加を推奨しています。これはzoomでレッスン提供する場合の、一番小さな課題です。
そのほか最近課題に思っていることは2つあります。まずは再開へのロードマップ作りです。日本でも全剣連がガイドラインを発行し、それを元に再開へのロードマップを引き始めているかと思います。
オランダも、ロックダウンが解除され人々が少しずつ外へ出始めています。他競技や日本のガイドラインを元に、私たちも9月1日の再開に向けて行動を開始しなければなりません。
また、通常稽古に戻ってから、この活動をどう繋げるかも考えていくつもりです。月の最後には、参加者の皆さんにアンケートをお願いしています。
・オンラインでのレッスンとコミュニケーションが、子どもと保護者の剣道へのモチベーションにどんな影響を与えるのか
・コーディネーショントレーニングが剣道にどんな影響を与えるのか
上記2点について、実践とアンケートを通して研究していきたいです。
大人向けにオンラインで勉強会もやってます!
ちなみに、まだメンバーは3人なのですが、コーディネーショントレーニングやオンラインレッスンに関する勉強会も開催してます。slackとzoomを使って各自調べたことを報告・考察してます。
オランダだけではなく、他国の子ども&保護者の方でコーディネーショントレーニングをやってみたい場合は、ご連絡いただけたらオンラインレッスンを無料提供します(その代わり、アンケートにご協力いただきたいです!)。
こっそりとした勉強会なのですが、絡んだことがある人で興味があったらご連絡ください。私が人見知りの保守派なので、話したことがある方の方がいいかもしれません…!
世界的に本当に大変な状況になってしまいましたが、「今しかできないこと」「今この状況だからこそ発見できること」も多いはずです。少しずつ考え行動し、発見したことを共有していきたいと思います。
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