手作り感満載!ダース・ベイダーにニンジャ……オランダ人の剣道キャンプから学んだこと
10月14日からまたもやロックダウンになってしまったオランダ。今回はパーシャル・ロックダウン(部分的ロックダウン)と呼ばれ、10月27日に施策が評価され今後の方針が発表されます…!
こんな状況になるちょっと前に、オランダの子供を対象に剣道キャンプを行いました。オランダは子供のスポーツに関する規制は比較的ゆるくて、集まることもできます。時期は、第一回目のロックダウンが明けた後。「子供同士の親睦を深めるためにキャンプを開催しよう」と、オランダ国内の5つの道場合同で開催されました。
日本とはちょっぴり違い、ユニークだった今回のオランダの剣道合宿。学ぶことも多かったので、備忘録も兼ねて記録します。
学び①遊びに対する目標設定の本気度
まず、目標設定の仕方からちょっと度肝を抜かれました。
オランダ人の先生が「向こう数ヶ月は、この剣道キャンプのことで子供の頭がいっぱいになるくらい楽しすぎる合宿にしたい」と言い出したんです。よくそんな目標考えついたね!?これ、剣道だよ!?と、本当にびっくりしました。
これまでの自分の経験から、「剣道」「合宿」この2つのキーワードが組み合わさった時点で子供にとっては「できるだけ避けたいイベント」という印象がありました。
さらに、ゲームに夢中になる子供たちを見て「昨今のゲームは友達と遠隔で繋がりながらできるのか…こりゃ剣道はゲームに勝てないな…」とぼんやり思ったばかりだったので、「剣道が盛んな日本出身なのに、私の方がもしかして剣道の可能性を信じてなかったのでは…」と大いに反省しました。
掲げた目標を達成すべく、下記のアイデアが実行されました。
・結束感を高めるための、オランダ剣道連盟のロゴ入りTシャツの制作(オランダ剣道連盟に出資してもらいました)
・「剣道を好きになってもらう」ために、まずは「剣道はめちゃくちゃ楽しい」と感じてもらうこと。オランダキッズ剣道という場を楽しんでもらい、居場所に感じてもらうこと。
そして「楽しむこと」の集大成が、このダース・ベイダーでした(※オランダ剣道代表のキャプテンが見事に演じてくれました)。
オランダ人の保護者のご協力を得て3Dプリンターで制作したマスクで、脚本(このキャンプには脚本が存在しました)によると、ダース・ベイダー率いる悪のニンジャたちが誕生し、彼らをやっつけるために子供たちが立ち上がる…という筋書きでした。キャンプは金曜の夜からスタートして日曜の午後までだったのですが、ほぼニンジャとの戦いに費やされました。
ドンキに売ってそうなニンジャコスチューム。どうやらオランダでも入手できる場所があるようです。
これもオランダ人の先生が用意してくれたグッズで、発泡スチロールの筒の中にプラスチックの筒を入れてガムテープでぐるぐる巻きにして剣にするんです。男子たちは夢中でした。金曜の夜からスタートした合宿でしたが、私が記録した限りでは、土曜日の朝6:30頃からこの棒でテントを叩きまくり、9:40の時点で剣をボロボロにしていました。
面白かったのは、竹の棒と輪ゴムで凄く大きなピラミッドを作ったこと。オランダで生まれ育った日本人の男の子が教えてくれたのですが「オランダのキャンプだとよくあるやつだよ」とのことです。
今回のキャンプは、下は6歳、上は17歳とけっこう幅広い年齢の子たちが集まりました。ピラミッド制作では、上の子が下の子たちの面倒を見て、真ん中の子たちは自由に遊んでるような感じで、見ていて尊いな〜と感じ入りました。
そして子供たちがせっせと作ったピラミッドをダース・ベイダーとニンジャたちが襲撃するという筋書き…。
オランダ人の先生が煙幕まで用意してくれて、私たちニンジャが煙幕を投げ、さらに水風船で子供を攻撃します。ガムテープでぐるぐる巻きにもしました。
これめちゃくちゃ盛り上がりました。子供たちもテンション上がって、棒でけっこう本気で叩いてきて、おかげで突き指しました。
この装置もオランダ人の先生が手作りして持ってきてくれたのですが、これで水風船を飛ばすんです。
子供20対ニンジャ5とかだったので、大人的に戦いは圧倒的に不利でしたが……。このアクティビティが「一番楽しかった!」と人気でした。
学び②やりたくないことは、やらなくていいよー!
土曜日の夜のアクティビティには「オール・ナイト・カラオケ」とありました。「アカペラで日本語の童謡でも歌うのかな?子供の合宿なのに、就寝23時って書いてある…」。
一体何をするのかと不思議に思っていたら「カラオケ・カー」なるものがやってきました。またまたオランダ人の先生が手配してくれてた…!!こんな車がオランダに存在していたなんて。
このカラオケ・カーの中に、カラオケに必要な機材が全て入っていて、食堂テントにセッティングして夜はカラオケ大会でした。
しかし、年頃のお兄さんたちはみんなの前で歌うの恥ずかしいのか、「サッカーする!!」と言ってどこかに行ってしまいました。このキャンプには20人ほどの子供が参加したのですが、カラオケに参加したのは3〜5人。他の子たちは、テントの周りをブラブラしたりサッカーしたり。好きに遊んでました。
先生がせっかくカラオケ・カー手配したのに…!とちょっとドキドキしましたが、歌いたい子たちはたくさん歌えていたし、先生自身もカラオケやりたかったのかたくさん歌ってました。
余談ですが、日本の体育会系の剣道部だと先生が生徒に無理やり余興で歌わせるということもあるみたいですね。ちょうど同じ時期に日本の学生さんが無理やり合宿で歌わされたという話を聞いたので…いろいろ考えてしまいました。オランダのこのキャンプはもともと、みんなが楽しむため、いい場所と感じるためにやってるアクティビティなので「やりたくなかったら、やらなくていいよ!」のスタンスは、筋が通っているなと思いました。
学び③ 「やりたい」気持ちは強制からは生まれない
剣道も最終日の午後にやりました。もう半年近く防具をつけてなかった子もいたので、成長してて甲手が入らない!と言ってたり。子供の成長って本当に早い。
・基本打ち
・技の練習
・3グループに分かれて試合稽古
・風船を頭につけてサバイバルゲーム
こんな感じの内容でした。キャンプ後に子供たちにとったアンケートの中には「もっと稽古したかった」という声もあったので次回に活かされると思います。子供たちにも、合宿の目的が「親睦」であったことを共有し、その点において成功したか?も聞きました。概ね、満足度は非常に高かったです。子供と目的を共有しようとするところも、いいなーと思いました。
オランダの少年剣道はまだ人口20-30人くらいで小さいです。これからみんなで大きくしていこう!と話しています。先生たちと、今後のことについても話しました。目標を決めようと。
いろいろとアイデアが出るなかで一番印象的だったのが、あるオランダ人の先生が「練習をやりすぎて、子供の負担にならないよう気を付けるべき」と言ってたことでした。
個人的に、剣道も勉強も、これから成長するのであれば「いかにたくさんこなすか」「いかに頑張るか」が大事だと思っていたので、まさかそんな意見が出るなんて驚きでした。
たくさんの努力や、勝利が第一目的ではなく、子供たちの現実に即した量、その範囲内で最大限の効果を出そうとしてるんだ…とカルチャーショックを受けました。私以外、オランダ人の先生たちはみんなこの意見が「当たり前」のような口ぶりで、自分が無意識に持ってた「当たり前」と真逆で、本当に驚きました。
オランダ在住ライターの倉田直子さんが書かれた「オランダの子供の幸福度が高い理由考察」で、以下のようにありました。
オランダにはもともと「Zesjescultuur」(6点文化)という言葉があり、「10点満点のうち6点取れば進級できるんだから、そこそこでいいじゃない」という風潮があります。
もちろん良いスコアで高校を卒業すれば大学で学部選択に有利に働いたりもしますが、がつがつしないでも平均くらいでいいんじゃない?という文化背景があります。ハングリー精神が足りないとネガティブに判断する向きもありますが、ユニセフのこの調査は、オランダのこういう風潮が反映されているのではないかと私は思います。
まさにこの、「そこそこでいいじゃない」という緩い雰囲気があって、「もっと成長しよう」「もっと頑張ろう」「もっとできる」という空気の中で育ってきた自分には凄く新鮮でした。幸せのために頑張ってきたけど、案外、頑張らなくても幸せで楽しいのかもって。
そして、オランダの剣道はけっこう強いです。女子は前回のヨーロッパ大会で団体優勝、世界大会でもベスト8に入ってます。
「子供にやる気がないのであれば、強制はできない。子供にはスポーツを選ぶ権利がある。様々なことを試すべきだ。剣道を継続してもらう、ただ一つの方法は彼らの内発的動機に働きかけることだと思う。練習したい子はすればいいが、全ての子供に強いることではない」
剣道はスポーツじゃなくて武道なのですが、上記では便宜上、先生のコメントをそのまま「スポーツ」と訳しました。武道もスポーツも、人生を豊かにするための一つの手段と捉えているように感じます。
まとめ
こんな感じのオランダの剣道キャンプでした。手作り感あふれる、いい合宿だったと思います。キャンプの朝ごはんは↑の写真のような、朝から糖分たっぷりだったりと、ちょっとしたところで日本との違いを感じられたのも楽しかったです。
ちなみに、これがオランダの典型的な合宿というわけではありません。オランダの大人の剣道はまたちょっと違うし、今回は集まった人たちの個性が炸裂した合宿でした。でも、学ぶことは多かったし、ハッとするような意見も出て凄く勉強になりました。「これがオランダかー」と一括りにせず、「オランダ人にはこんな側面もあるんだね」くらいで読んでいただけていたら嬉しいです。
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