飲食店がただの「場所貸し屋」になる時
今朝の日経新聞の記事にこんな事が書いてありました。
最近は「3密を避け、なるべく人との接触を控えるように」と叫ばれています。
記事のような感染拡大を防ぐための企業の努力は本当に素晴らしいことだと思います。
我々個人の店ではなかなかここまでの対応というのはできません。
さすがですね。
ただひとつ疑問が残ります。
果たしてこれが本当にお客さんの求めているスタイルなのでしょうか?
大前提として感染の拡大、蔓延はあってはならないと思いますが、こうした居酒屋にここまでの対応が必要ですか?
同じ酒を酌み交わし、共に同じ時間を過ごす。
だから居酒屋に行きたくなるんじゃないでしょうか?
もちろん、今はそれが難しい状況だというのはわかります。
どのお店も苦肉の策としてやっているということも。
でも居酒屋がこれをやっちゃうと外食の存在意義がなくなってしまうんじゃないかと思うのです。
ひとりで個室に入り、画面越しに飲むくらいなら家でテレビを観ながらの方がずっと気楽ではありませんか?
あえて顔を突き合わせて話がしたい、同じ空間を共有したい。
そのための居酒屋ではないでしょうか?
僕は決してこれらの対応を否定しているわけではありません。
でもこれでは居酒屋を利用する根本的な目的とズレているんじゃないかと思ったんです。
居酒屋がつまんないところになりかねない。
そんな不安が湧いてくるのです。
また、ここ最近の風潮として、なんでも個人、リモートへ持っていこうとすることに対しても強い危機感を覚えます。
新しいスタイルの確立も大事ですが、もっと大事なのはこれまでと同じような外食ができることなのではないでしょうか?
おそらくしばらくの間はこのようなリモートの流れになっていくでしょう。
現状は仕方ありません。
ですが、ファッションなどと同じで必ずまた一周して帰ってくる気がします。
それまで自分の店が維持できるかどうかはわかりませんが、どこかで「食事とは人の温もりが感じられて、お腹も心も満たしてくれるもの」という文化を残しておかなくてはいけないと思うのです。
それが現在のコロナ禍で営業している店の使命ではないでしょうか?
もはやそういった僕の先入観自体が間違っているのかもしれませんが…
*
売り上げの面で考えても、このような形での個人客が増えるということは売り上げも確実に落ちてしまいます。(この記事では食べ物も同じ物を共有とのことでしだが)
「飲み会以外は家では飲まない」という若者が年々増えているなか、そのような人がリモートの居酒屋に行ったとしてもお酒が進むでしょうか?
「別にどうでもアルコールを飲まなくてもかまわない」というご意見もあるでしょう。
ですが、飲食店というのはそもそもアルコールを売ってナンボな商売なので、アルコールの売り上げが落ちるということは、客単価の安いお店にとっては死活問題になりかねません。
(言い方はひとまず置いておいて)利益率の悪い顧客のために席を確保し、ノンアルで2時間。
誰がどう見ても効率が悪すぎますよね。
もちろんお客さんに優劣はなく、どんなお客さんも皆さん一様にありがたいのですが。
*
一度振り返ってみると、我々が提供するサービスというのは、本来「店側とお客さん」あるいは「お客さん同士」の間を取り持つものです。
そのツールが料理であり、空間であり、おもてなしです。
そしてそこに至るまでには我々現場の人間以外にも、(生産者さんや仲介業者さんなど)必ず人と人とが介在し、その繋がりのラストが我々飲食店だと思っています。
みんなから繋がれたバトンをアンカーのお客さんに受け渡す。
その重要な役目を担っていることが我々のやりがいでありプライドです。
「農家さん、ありがとう!オレが美味しくするよ!」
「業者さん、無理言ってごめん。おかげで助かったよ。」
それが飲食業なんです。
そこに携わる多くの方々の想いや情熱をお客さんに正しくきちんと伝えなくてはいけないんです。
だからこそ、今の方向性について疑問が湧くのです。
料理は自分ひとりの力で作っているのではありません。
僕らはあくまでも繋ぐための存在です。
*
急速に進む「個別化」「非接触化」によってこのまま飲食店がただの「場所貸し屋」の一途を辿ってしまうのか?
それともお客さんの笑顔と笑い声で溢れる場所であり続けるのか?
コロナ対策やビジネスの変革と同時に未来の飲食店の在り方についても我々に課せられた重要な課題だとおもいました。
同日の日経新聞の記事です。
リモートによる弊害は我々飲食業界だけの問題ではなさそうです。