僕なりのXmas Story
クリスマスも間近に迫った12月20日。
トナカイ長のトニーは、サンタクロース長のサントスとの最終打ち合わせの為に、サントスの自宅のあるフィンランドに向かっていた。
目的地に到着し、サントスの家のドアに掛けられている伝言を見て、トニーは愕然とした。
“年末まで不在にしております”
「…はぁ?都合1週間ぐらいしか仕事しねぇくせになめてんのかよ、クソが。サンタが年末まで不在ってわけわかんねーだろ」
毎年12月20日にトナカイ長とサンタクロース長が最後の打ち合わせを行うのは定例の事。この打ち合わせで、世界各国のサンタクロース協会の情報を集約し、年間予算案を下に、プレゼントの梱包や配送スケジュールの最終確認、シフト組みや管理職の配置、トナカイやソリ(多くはレンタル品)の調整を行うのだ。例年一定数の当日バックレも発生する為、その分の余剰人員も計算しなければならないし、“赤い衣装と白い髭”という最低限のサンタアピアランスを守らない奴らも少なからずいる。そういったサンタあるあるへの対策も入念に予防線を張らなければならない。それぐらい、重要な打ち合わせなのである。
トニーはまっさらな白い雪の上につばを吐き、ポーチからスマホを取り出すとサントスに鬼電した。
“この電話は、電波が届かない場所にあるか、電源が入っていない為、掛かりません”
「…殺す」
そう呟いてはみたものの、事態は変わらない。仕方なく、サンタクロース副長の日本人、サトウに連絡をした。
「サトウさぁ、何か聞いてる?」
「あ…申し訳ありません!サントスさん、お母様の七回忌だそうで、今回は私が代理で参加することになっておりました。それなのに失念してしまいまして、誠に申し訳ございません!」
「いや、詫びとか良いからさ。どうすんだよ、マジで。お前今日本でしょ?今から来れるの?」
「それがその…、明日まで私のソリ、メンテナンスに出しておりまして…。重ね重ね申し訳ありません。遺憾の極みです…」
「だから詫びはいらねーってば!もういいわ。お前、来週査問委員会に掛けっから」
そう言ってトニーは電話を切り、サトウの電話番号を着拒登録した。
「今から連絡して来れるリーダークラスのサンタは…」
そう呟きながら、連絡先リストを確認する。そして渋々、グリーンランドの支部長サンドマンに連絡を入れた。
「そういう訳だから、今から来てくんない?」
「嫌だよ。なんで俺がサントスの野郎の尻ぬぐいなんかしなきゃならないんだよ」
サントスとサンドマンは驚くほど馬が合わない。いや、トナカイが合わない。わかっていたから、コイツは避けたかった。
「まぁそう言うなって。今年だけサンタクロース休業しますとか、言えねぇじゃん」
「そりゃそうだけどさ。あ、じゃあ次のサンタクロース長選挙、俺に票入れてくれよな」
「お前それはまずいって。聖職選挙法違反になるって。下手すりゃクビだぜ」
「誰も聞いちゃいないっつの。お前だって今回の件でサントスとサトウには任せられないってわかったろ?」
「まぁ、な。わかったよ。あくまで俺の意思な」
「よっしゃ。契約成立だ。今から着替えて行くから…、30分時間くれ」
「あぁ、了解。恩に着るわ」
こうして今年のクリスマスも世界中の子どもたちに、無事プレゼントが配られるのだった。
おしまい。