水音

 田んぼに張られた水を見てた。白いまだらに喰われた青が、風といっしょに映ってる。あぜの雑草が、さぁっと笑う。流れる用水路からは、呼気のはねる音。いくつもの影が、底から水面に描いてく。日影がふぅっと膨らんでって。熱で甘く溶けてる土と緑が香った。ひらめく冷たさを翼が切りつけて、切りつけて。向こうの山の蒼が波打つ。くつの底で砂が震えた。頭の上で羽音が輪を作った。草の擦れる色が聴こえる。痛いきらめきに近寄って、用水路をそっとまたいで。くつに、足首に、絡むやわらか。ほのかにひんやりとした空気に、肌を抱かれた。響く水音は、凍ってた。

                               (了)

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