偽物のほうき星【連作短歌】
彗星のきたみち指でなぞったらたどり着いたのあなたのほおに
詞も知らず曲の名前も分からずにどれみで歌う初見の熱を
より暗くもっと光のない場所でだけ輝くのみどりのあなたは
決められた二文字の定義ほくそ笑み私はすくう彼の吐物を
映らない映らないって駄々をこね黒い瞳を食もうと口を
錆びついてちぎれたチェーン自転車を蹴っては睨み夜気を仰いで
ちかちかと流れるひかり飛行機と気づいてひとりくちびる噛んで
人工の光にすべて呑まれてくその明滅も汗も命も
ガス管をくわえて死んだ人たちの苦しみ今なら分かる気がして
生け垣でこされた声は甲高く私と違う仕方で呼ぶの
ほこりっぽい窓台腰かけ開け放しにじみ出る熱拭えないまま
言の葉の海で裁かれほふられていく一対の片割れを見て
まだうぶな心のように名前とか場所とか運命組みかえてみて
かすれ声閉じ込めた珠つまんでは空にかざしてふっと離して
その胸に両手を浸しすくい上げ星にかかげた罪悪の音
偽物のほうき掃いてる夢を見た私は朽ちた竹ぼうき役
まっすぐにさしてた傘を傾けて縁から垂れるしずくで顔を
あっちはね澄んでてみんな綺麗きれいこっちは濁りきっててキモいの
星々のおちた河原で大の字になって起きたら髪にサワガニ
砂を踏む響きを喰ってる星座見て指で一太刀しても切れずに
間に合わず手に吐いたもの生ぬるくあの人のとはまるで違って
その広い背に左の手あてがって私一人の翼さすって
後ろ髪両手でふっとなびかせて光らぬほうき星をつくった
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こちらの企画への参加作品です。
素敵な曲を、機会を、出逢いを、ありがとうございました。
こちらの曲をテーマに短歌をつくりました。
最後に、こちらの記事で参加しませんかと誘ってくださった、たなかともこさん、きっかけを、ありがとうございました。