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伊藤緑
2020年8月16日 18:30
ただふっと 白い壁に背を預け 遠くで鳴くカラスや 近くで叫ぶ蝉の声を 聴きつつ天井から 青い窓へと飛び移ってゆく目玉を そっと追いかければ 話しかけてくる者の やわらかな声 その吐息には 澄んだ「なぜ」以外の いかなる色彩も染みておらず どれだけ答えようとも 声の枯れることはない
2020年8月9日 18:30
あの古い湿っぽい林道へと入ったら水色の小さい長靴の足音がふっと耳をかすめて振り返ったら影の底かすかにきらめく木漏れ日の心音はひどく甘ったるくてその淡いクリーム色に目を細めれば葉擦れの流れに髪を肉を呑まれて呑まれて緑の腐臭は夏の底でまぶたを閉じたレトリバーのあのにおいとはまるで違っていて濡れた朽葉が靴底で鳴り鳴り手のひらで汗を拭ったら束とな
2020年8月4日 18:30
足首に絡む銀の砂の 上澄みのぬくもりと 底のほうの冷たさに そっと目を伏せれば 丘の下のほうで うつむくひまわりが 月影を浴びて燃えていて 逃げゆく虫の声が 肺へともぐり込んでくる 風は冷たく生ぬるく 仰向けば 星々の青い息が ふくらんではしぼんで ふっと振り返れば 背後を流れる細い川の 白くて澄んだきらめきが のどを深く鳴らしながら 手招
2020年8月2日 18:30
この手に首に 巻きつけられた細くて青い 食い込む縄の力強さに ぐいぐい引き寄せられるまま 連れてこられたその先で 知恵と知識と 意味と理由を呑まされて むせれば髪を掴まれて こぼすな生きろとささやかれ ともに見たブヨブヨに対しては きれいだろうと微笑まれ 無言でいればあごを掴まれ 首をかすかにでも横へと振れば 絞められ蹴られ ありがとうをぶら下げていな
2020年8月1日 18:32
モザイク窓の黄緑を ほおを赤らめた淡青が食み ギザギザ肺がいつまでも長く 息を吐いては吐き出して 鉄柵のベージュから垂れた光を カラスが一羽飲んでゆき そっと窓を開いたら さっきの黒が東屋の上で 熱気 そのくちばしでくわえていて はねるその身を 窓の熱に手ぇ重ねて見ていたら 緑と大気の 絡む汗のにおいに なんだかひどくめまいがして 土とアスファルトの舌