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WHAT YOU WANT

彼女は帰り際、
「それは本当に、あなたがしたいことなんですか?」
と言った。
「僕が本当にしたいこと……」

自問してみたけれど、心の引き出しには、何の答えも入っていなかった。隣の引き出しも、その隣も、どこを探っても空っぽだった。

僕の中にある、いくつもの価値観。
仕事、家族、お金、遊び、学び、友だち、成長、、、。
モノサシはいろいろ持っているつもりだった。

けれど……
僕の持つモノサシは、誰かと共通認識を作るためのものであって「本当の自分の欲求」を測るモノサシではないことに気がついた。


2021年秋。
彼女は、ドバイで知り合った友人である。
人気ブロガーでありインフルエンサーだ。いや、コンサルタントに近いのかもしれない。多くの女性に、自分らしく生きるための考え方を紹介し、影響を与えてきた人だ。

正直に言うと、初めて彼女と会う約束の日、僕はうまく話をあわせられるか、不安だった。彼女のブログや書籍では、かなり尖ったことが書いてあったし、はたから見たら、僕と彼女は、正反対な人格に映るかもしれない。

少なくとも、僕はそう感じていたけれど、妻を通して、僕は彼女に会う機会を得た。

その日、街は渋滞で、タクシーはなかなかレストランに着かなかった。
初対面で遅刻なんて、、、そう思いながらゲートをくぐる。

店内は真っ赤な絨毯で、黒いスーツの従業員が優雅な身のこなしで動いている。気さくな白人男性が、僕の3歳の娘に微笑みかけ "Hello, princes."とお辞儀をした。
その目線の先、一段高いフロアの赤いテーブルに、彼女は一人娘とともに僕らを待っていた。

かなり遅れたにもかかわらず、彼女らは穏やかに自分たちのペースで時間を過ごしていたように見えた。その二人の様子を見た瞬間に、僕の心配は解けた。親子の空気感から、本質が垣間見れる瞬間があると思う。そして、こういう直感は、なぜか当たるのだ。

ともかく、僕らはそんな出会いを経て、数ヶ月ぶりに自宅で再会した。

妻は、この日、語り合うのに十分な量のワインを用意していた。
お酒の勢いもあって、僕は出会ってまだ間もない相手に、遠慮なく質問してしまう。僕のこれからの仕事のこと、ドバイのこと、ファッションのこと。

彼女は、じっと話を聞いた後、にこにこと答えてくれる。その内容は常に個性的で思慮深く、吸引力があった。
誰かに影響を及ぼす人は、そのモードに入ると、まるで見えないマントを羽織っているように見える。人を鼓舞し、自分自身も鼓舞するマントだ。

彼女は、僕の本来の力を、どうしたら引き出せるのか、考えているように見えた。そして、一通り僕の話を聞いたあと、彼女は一息ついて、こう言った。

「それは本当に、あなたがしたいことなんですか?」

僕の思考は停止した。

すぐに"Yes"という言葉が出てこなかった。
モゴついた後、
「今の質問を、何度も自分に聞いてみます」
と答えた。

彼女と別れた後、
僕が本当にしたいことは何か。
僕は何者になりたいのか。
何度も自問してみたけれど、その答えは見つからなかった。

お酒のせいだろうか。

翌朝、同じ質問をしてみたけれど、やはり結果は同じだった。
いったい、自分は何がしたいのだ。
なんで、その答えが思いつかないのだろう。

そこで、少し質問を変えてみた。

今、僕がやりたいことは何か。

すると、この質問には、たくさんの答えが返ってきた。

作りかけのサービスを形にしたい。
できることなら、不条理な世界を変えたい。
かつての自分のような若者に、成長するためのヒントや、もっと広い世界を教えてあげたい。

しょうもない目の前のことから、子供じみた内容まで。

そして、また
本当に自分がやりたいことは何なのか?
を尋ねてみると、今度は、今やりたかったことから
さらに厳選された欲求が湧いてきた。

信頼できる仲間と集まりたい。
信頼できる情報を集めたい。

誰かのためでなく、自分が求めことが何なのか、少しずつ見えてきた。

「今やりたいこと」と「本当にやりたいこと」
それを交互にイメージすると、不思議と今やっていることを、将来、何につなげていけばいいか、見えてきた。

今取り組んでいることの、大切さや面白さに気づいてくる。
その先の可能性がわかるからだ。

もっと足かせを外してみよう。
純粋に、一番やりたいことを追求する。
そこに向けて、今やりたいことを拡大させていく。

改めて、誰のためでもなく、自分のために想像してみたい、と思った。

実現できそうもない想像を「妄想」と呼ぶけれど、次回、彼女に再会したとき、僕が語るのは「展望」だろうか、それともただの「妄想」だろうか。


いや、どちらでもいい。なぜなら……

WAHT YOU WANT.
それは本当に僕がしたいことだから。

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