人を殺す正義に従わなくてよかった
私の心は、幾度となく殺された。
鋭く尖った棘は、
私も気が付かないうちにずぶずぶと心に深く刺さり込んできた。
抜こうとしても、もう手が届く場所にその棘はない。
傷から血が流れ出ないように、
私は 「大丈夫」という言葉で 隠していた。
だけど血が固まらなくて、止まらなくて。
足元に血だまりができる前に私はその場所から離れようとした。
もうこれ以上自分を隠したくなくて、
自分で自分を殺したくなくて何とかして逃げ出したかった。
でも、いつも誰かの手が足首に絡みついている。
そして私のことをじっと見据えてこう言った。
「逃げるな。逃げたら今までのものがすべて終わる」
その場から少しでも後退しようものなら、
逃げていると言われて、
目の前に人という壁が立ちはだかる。
そのたびに、なんで私はこんな駄目な人間なんだと思うし、
駄目になるまでこんな場所にいなきゃいけないんだとも思うし、
腹の底から湧き上がってくる苛立ちで
もう誰も傷つけたくないとも思うし、
自分ばかりが傷つけられるのは理不尽だとも思うし、
自分なんて早く死んでしまえばいいとも思うし、
どうして私が死んでやらなきゃいけないんだとも思っていた。
大人から見れば、
私が悲観しすぎているように見えたのかもしれないが
私からすると、学校という小さな世界が私の世界のすべてだった。
教室で同じことを何度も楽しそうに話すクラスメイト、
何時間も何時間もやらされる体育の集団行動。
学校で起こるすべてに飽き飽きしていて、
授業中、当てられても寝ているふりをして、
授業中でも教室から出て階段に座ってサボっていた。
学校に行かないと言う選択肢は、逃げなのだろうか。
教室に入らないと言う選択肢は、逃げなのだろうか。
自分の世界に閉じこもるのは、逃げなのだろうか。
私は結局、あんなにも悪のように言われた
逃げを選択した。
あの場所では自分が枯れていくような気がしたから。
でもそれが正解だった。
未来への希望なんて何もなかった、過去の私は想像できたかな。
未来の私がまさか、
大勢の前で発表をするのを楽しいと思って、
タイピング検定で1級を取得し、
高校3年間を無遅刻無欠席で過ごして、
動画制作やポスター制作が楽しいと思い、
800人が参加するコンテストで上位30位に残るなんて。
過去の私は近づいてくる人を拒み、
距離を取り、
世界を自分完結で終わらせようとしていた。
だけど今は、
人と話していないと死にそうで、
時間に暇があるのに許せなくなっている。
こんな未来が想像できたかな。
進学する気もなくて、
誰も信じられなかったのに、
進学先で親友を2人も見つけて、
まさかこんな笑って過ごせる日が来るなんて。
本当はあのとき、
" 辛い " とか " 寂しい " とか " 助けて " とか
" もう頑張れない " とか " あなたには分からないよ " とか
" 誰かに必要とされたい " とか " 消えたい " とか
" 死にたくない " とか " 苦しい " とか " 行きたい " とか
言いたいことがたくさんあった。
今じゃなにが嫌だったとか、
どれがしんどかったとか
詳しいことはいちいち覚えてないけど、
多分ずっと苦しかった。
過去の私、" 逃げるな " はあなたの心を壊すから
そんな道理は聞かなくていい。
そんなのは、人を殺す正義だから。