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突然のJMAT体験記

熊本豪雨の発生

梅雨ってこんなに雨が酷かったっけ。沖縄にいた頃の台風みたいだ、と思っていたら、スマホに警報音がなり始め、雨足はどんどん強くなっていった。幸いにも谷田(やつだ)病院がある熊本県甲佐(こうさ)町では、大きめの川は流れているが、決壊することなくこの大雨を乗り越えた。ただ、同じ熊本県の南部地域にある球磨川が氾濫し、後に激甚災害指定となる被害をもたらした。かれこれ10年以上もテレビなし生活を続けている私にとっては、被災の様子をビジュアルで頻繁に見る機会もなく、職場の雑談やSNSに流れる情報で知るくらい。それでも悲惨な様子がひしひしと伝わってきた。そんな状況にいても立ってもいられず、災害支援に駆けつけた!という格好いい話ができたらいいのだが、そうした崇高な思いを抱いたわけではない。

大雨の土日があけて、病院に出勤すると、何人かの職員がソワソワして、熊本地震の時のように何か起こるのか!?といった空気を感じた。それを無視して、特に何も検討も方針も出さなかった。ちなみに熊本地震の時には99床の病院に20床のベッドを増設し、全国から80人ものボランティアを集め、被災した患者さんを受け入れる、という荒技をやってのけた。なので、この事務長は、また何かしでかすのでは?という空気が漂っていた。

少し変化が訪れたのが、関連の介護施設で支援物資を集めて、被災地で濁流に飲み込まれ何人も死亡者を出した施設の復旧のため、物資を届けるという。まぁ、そのくらいなら手伝おうかと思い、早速院内向けにチラシを作成して、全場所に足で回って物資募集を始めた。熊本地震の時に思ったのは物流が早々に回復するので、意外に支援物資が必要な時期は短い。それを超えると、ある意味不要な物資が多くなり、言い方は悪が邪魔になるという経験がある。なので、必要だと言われたものに限定して2日間で集め、すぐに送ることにした。さすが、250人もいる組織なので、2日でフロアいっぱいになるくらいのタオルや洋服が集まった。ちょっと良いことした気になり、満足感に浸り、それで終わるはずだった。

支援物資

フロアに集まった支援物資

ところが、その週の半ばに差し掛かった頃、院長から呼び出され、医師会のJMATで県南地域を支援に行くかもしれない、と言われた。院長は今年から地区医師会の会長になっており、もし動くなら自分が率先する必要があると思っているようだ。そうはいっても、会員に病院は数か所しかなく、あとは診療所ばかりの小さな医師会なので、そんなに積極的な要請はかからないだろうと思っていた。院長の指示を聞き流し、デスクワークをしていると医師会事務局から電話が鳴り、県医師会からJMATの出動できる日の調査票が届いているか、届いていたら返事をしてほしいと催促の電話があった。最近、ペーパーレス化を進めていてなかなか見ない事務長BOXをあさり、目的の用紙を見つけ出し、院長にどこに丸をつけるか確認した。すると、全部丸をつけて出せ!という。いやいや、気持ちはわかるが、診療の予約も入ってるし、入院患者もあるし、来客のアポイントも入っている。もし出動することになったら、それらも調整しろ、という指示なんだろうな。ひとまず全日程丸をつけてFAXした。一応、もし依頼が来たら、看護師も動かなきゃいけないので、看護部長と連携室の部長に状況を共有しておいた。それからは、日常業務に忙殺され数時間はJMATのことを忘れていた。

昼ごろに院外で打ち合わせをしていると、やたらとLINEや電話の着信があった。会議が終わって内容確認すると、明日から早速、JMAT出動するという。しかも2日連続。判断を仰ぐ連絡ではなく、院長が既に医師会にOKを伝えているので、手はずを整えろ、とのこと。

のらりくらりしていたが、さすがにスイッチを入れて対応することにした。夕方までの半日で明日からの体制を整えなければならない。まずは行くメンバーである。JMATでは医師1名、看護師1名、ロジスティック(事務)1名の最低3名でチームを作る。形式上は事前登録していた研修を修了しているメンバーが望ましいとなっているが、現時点での状況で臨機応変な対応をせざるを得ない。医師は院長が、看護師は看護部長が2日間とも出動するという。ロジは私ともう一人の経営企画部長が1日ずつ入ることにした。なにも私が行きたくなかったわけではなく、組織としての経験値を高めることと、何よりも移動中に休めないロジが高いパフォーマンスでいるためには交代体制がいいだろうと判断した。後から振り返っても、この判断は正解で、今回は日帰りを2日連続というミッションであったが、1泊2日ということも想定される。被災地での1日中連続の運転を、丸2日やるのは結構な負担である。頑張れ!で乗り切ることはできるだろうが、災害の場合は、その頑張る期間がどのくらい伸びるか未知数である。長期戦も想定して対応していくことが望ましい。

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