ナンバーガール・ガール
ハンバーガー屋の3階で仕事帰り、ひとりで適当に夕飯代わりのいちばん安いハンバーガーをもそもそと貪っていた。
自分よりずっと前から座っていただろうカップルがだらだらとポテトをつまみながらまぁまぁデカい声でバカっぽい会話を続けるのを横目に、早く帰ってくれないかという煩わしさも次第に薄くなるほどに金曜日の身体は疲れ切っていた。
彼らが帰ったところで、どうせまた次も同じような連中が座るんだろう。
ナンバーガールという日本のロックバンドが好きで、金曜日の夕方の疲れ切った頭でもそれをすぐに聴こうと思い携帯電話にイヤホンを繋ぎ経耳投与しながら、私もだらだらといちばん安いサイズのポテトを経口投与した。
どうして好きなのかよくわからないのに、私は弱った耳にそれを漫然と流し続ける。
それらの楽曲には私みたいな、クソ真面目で融通がきかなくて見るからに運動神経の悪そうな女の子はぜんぜん出てこない。
どちらかというとようやく席を立とうとしている横のカップルの女の子のほうがよほどそれらしい。ラクロス部か何かか、よく見ると彼らはジャージ姿に学校名の入ったたいそうな装備を背負ってのろのろと去って行った。
だらけていて、とても軽やかに見える。
クソ真面目なくせに髪を金髪に染めてみたりとか、ほとんど入る気もないくせにテニスサークルの見学に行ってみたりとか、失われた青春を取り戻そうとして起こした行動はだいたいかなり無様な結果となる。
すっかり染髪の痕跡もないくらいに伸びて今は真っ黒な髪を一つに結び、堅苦しいパンツスーツに着られ、分厚いビジネス書を二冊ほど持ち歩いてなんとなく賢くなったような気になって、大人ってこんな感じでよかったんだっけ。ねえ。
趣味は人間観察です。
大丈夫、あなたはひとりじゃない。
私の笑顔で世界中に夢と希望を届けたい。
ふざけるんじゃないよ。自分が一番何にも分かってないってことをそろそろ分かれよ。
この国には真面目な人もまだそれなりにはいるだろう。探せばやっぱりそれなりにはいるんだろう。ただ探せないし探さないけれども。
つぎの人生では絶対に絶対にものすごくテキトーな女の子になりたいと思った。
また朝が来る。春も近付いたというのに厳しい寒さが続く。冷凍都市。ビルってる都市。気が狂いそうな青空の下でもう少女という歳でもない私は一体、何を待っている。