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第一話 蟄蛇坏戸―へびかくれてとをふさぐ―

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和風ハイソサエティドメスティックFT小説『花巡る暦』のシリーズ一話目。 なんちゃって明治時代の世界で、旧公家の伯爵家の次女、咲保が遭遇する物の怪やモノたち、それらに対する家族や友…
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#神道

蟄蛇坏戸 ―へびかくれてとをふさぐ― (四)

<全六話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <四> 「まぁ、どうしましょう……」 「お嬢さま、お下がりください」  まるおは取り出した襷で素早く藍の袂をからげると、眦をキリリとあげて箒を両の手にして構えた。  居間を出て廊下をさほども進まないうちに、咲保たちは行手を阻まれてしまった。彼女たちの目の前には、人一人飲み込んでも余るかのような赤黒い色をした巨大な蛇が、廊下の幅いっぱいに蜷局を巻き、鎌首をもたげていた。 「まるお、平気?」  侍女はすでに臨戦

蟄蛇坏戸 ―へびかくれてとをふさぐ― (五)

<全六話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <五>  温かいお茶が美味しい……。  口をつけて、咲保は感嘆の吐息を溢した。先にいただいた紅茶も美味しかったが、やはり、緑茶の方が気分が落ち着く。湯の温度もいれ方も完璧。使っている茶葉は、宇治の最高級品ではないだろうか。甘みを強く感じるが、仄かな渋みが味を引き締めている。喉越しはすっきりとして、鼻を抜ける馥郁とした香りが消えていく様がとても良い。 「だ、か、ら! どうして、そこで変だとご自分で気付きませんのっ

蟄蛇坏戸 ―へびかくれてとをふさぐ― (六) 

<全六話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <六>  更にひと騒動を経て、その後の説明は手短に、当主らが戻る前にと咲保は熾盛家を後にした。恐縮し続ける茉莉花を宥め、笑って次の再会の約束を固くした。 「思いがけないことばかりだったけれど、楽しい一日だったわ。お友達もできたし」 「それはよろしゅうございました」  再び出てきてもらったまるおも今はすっかりと落ち着いて、人力車の隣の席で澄ましている。車夫は今は人の姿をしているが、まるおの仲間で、長い距離でも走