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第一話 蟄蛇坏戸―へびかくれてとをふさぐ―

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和風ハイソサエティドメスティックFT小説『花巡る暦』のシリーズ一話目。 なんちゃって明治時代の世界で、旧公家の伯爵家の次女、咲保が遭遇する物の怪やモノたち、それらに対する家族や友…
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蟄蛇坏戸 ―へびかくれてとをふさぐ― (一)

<全六話> <一> <二> <三> <四> <五> <六>  <一>  天高く、訪れた季節の恵みを表すような美しい日だ――まさに園遊会日和。 (なんて美しいのかしら……)  陽の光を受けて、すべてがきらきらと輝いて見える。葉を赤く染め上げた紅葉にナナカマド。下生えのリンドウは濃く青く咲き誇り、少々、季節待ちの椿やサザンカの緑に隠れるようにして遠慮がちに見えるが、紫の実が珍しくも美しいムラサキシキブ。丸い葉も愛らしく黄色い花を咲かせるツワブキ。  それ以外にも多数の植物

蟄蛇坏戸 ―へびかくれてとをふさぐ― (二)

<全六話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <二>  熾盛茉莉花と咲保は、高等女学校の学舎で三年間を共に過ごした同級生だ。とはいえ、その間も、卒業してからの二年間も個人的な交流はほとんどなかったに等しい。稀に、社交場で顔を合わせた時に挨拶をするくらいだ。  彼女たちの女学校は、長らく政府の懸案とされていた、女子教育の規範として設立されてからまだ間もなかった。当時の教育制度は、世間の期待とは裏腹に方針もしかと定まっておらず、手探り状態だった。その上、生徒自身

蟄蛇坏戸 ―へびかくれてとをふさぐ― (三)

<全六話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <三> 「まあ、素敵。とてもハイカラですのね」  茉莉花の案内で通された家族用の居間は広々とした西洋風の設えであり、調度品も純和風の家で生まれ育った咲保にとっては、珍しいものばかりだった。カーテンの織り柄すら、興味深い。  植木に遮られながら窓から差し込む光も塩梅よく、落ちる影も柔らかだ。室内の空気も清浄で、いるだけで和む、とても気持ちの良い部屋だ。 「ありがとうございます。どうぞ、こちらの履き物に変えてお使

蟄蛇坏戸 ―へびかくれてとをふさぐ― (四)

<全六話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <四> 「まぁ、どうしましょう……」 「お嬢さま、お下がりください」  まるおは取り出した襷で素早く藍の袂をからげると、眦をキリリとあげて箒を両の手にして構えた。  居間を出て廊下をさほども進まないうちに、咲保たちは行手を阻まれてしまった。彼女たちの目の前には、人一人飲み込んでも余るかのような赤黒い色をした巨大な蛇が、廊下の幅いっぱいに蜷局を巻き、鎌首をもたげていた。 「まるお、平気?」  侍女はすでに臨戦

蟄蛇坏戸 ―へびかくれてとをふさぐ― (五)

<全六話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <五>  温かいお茶が美味しい……。  口をつけて、咲保は感嘆の吐息を溢した。先にいただいた紅茶も美味しかったが、やはり、緑茶の方が気分が落ち着く。湯の温度もいれ方も完璧。使っている茶葉は、宇治の最高級品ではないだろうか。甘みを強く感じるが、仄かな渋みが味を引き締めている。喉越しはすっきりとして、鼻を抜ける馥郁とした香りが消えていく様がとても良い。 「だ、か、ら! どうして、そこで変だとご自分で気付きませんのっ

蟄蛇坏戸 ―へびかくれてとをふさぐ― (六) 

<全六話> <一> <二> <三> <四> <五> <六> <六>  更にひと騒動を経て、その後の説明は手短に、当主らが戻る前にと咲保は熾盛家を後にした。恐縮し続ける茉莉花を宥め、笑って次の再会の約束を固くした。 「思いがけないことばかりだったけれど、楽しい一日だったわ。お友達もできたし」 「それはよろしゅうございました」  再び出てきてもらったまるおも今はすっかりと落ち着いて、人力車の隣の席で澄ましている。車夫は今は人の姿をしているが、まるおの仲間で、長い距離でも走